研究課題/領域番号 |
18J13899
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂口 謙一郎 北海道大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 卵胞 / 卵子 / 体外発育培養 / 体外受精 / OPU-IVF / 卵巣予備能 / 牛 / 水牛 |
研究実績の概要 |
これまでの研究では、卵子の受精能や性ステロイドホルモン分泌などの卵巣の潜在的能力 (卵巣予備能) と相関する卵巣内の胞状卵胞数に着目し、卵子発生能との関係を検討した。 1. 牛卵巣を胞状卵胞数により、High 群 (25個以上) およびLow群 (25個未満) に分け、各卵巣から採取した初期胞状卵胞由来の卵子-卵丘-顆粒層細胞複合体 (OCGC) を体外発育培養 (IVG) に供した。OCGCのエストラジオール (E2) 産生は、培養8日目においてHigh群の方が高く、卵子核成熟能も高かった。IVG後の卵子を体外受精した結果、High群卵子は胚盤胞 (9.1%) まで発育したが、Low群からは胚盤胞は得られなかった。以上の結果から、Low群の顆粒層細胞はE2産生能が低く、卵子発生能低下の要因となることが示唆された。 2. 超音波画像診断装置を用いて、経産ホルスタイン種雌牛を胞状卵胞数によりHigh群 (30個以上) およびLow群 (30個未満) に分類し、卵胞発育動態および血中と卵胞液中のホルモン濃度を評価した。High群の胞状卵胞数は増減を伴う波状の動態を示したが、Low群では増減は見られなかった。血中卵胞刺激ホルモン (FSH) 濃度は発情周期を通してLow群で高く、E2濃度はHigh群の方が高かった。また、卵胞液中のE2濃度は、排卵期においてHigh群の方がLow群よりも高かった。以上の結果から、牛生体内でもIVGと同様に、Low群におけるE2産生能の低下が示された。 3. フィリピンの国立研究機関であるフィリピンカラバオセンターにおいて、牛よりも卵巣予備能が低いことが知られる水牛における経腟採卵-体外受精の改良に取り組んだ。その結果、FSHおよび性腺刺激ホルモン放出ホルモンを用いた卵巣刺激処置により、胚盤胞発生率は無処置の場合の9.1%から21.6%へと大きく向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
牛のIVG系を用いた研究は、既にJournal of Reproduction and Development誌に発表済みである。生体の牛を用いた研究について、当初予定していた顆粒層細胞の遺伝子発現解析は、リアルタイムPCRの実験条件の設定がまだ終了できていない。また、生体から内卵胞膜細胞を採取するために、超音波検査による観察下で用いるバイオプシー針を試作し、採取を試みたが、卵胞壁の辺縁にバイオプシー針を刺入することが技術的に困難であることから、採材法の確立には至っていない。一方、これまでに得られた超音波検査、血中および卵胞液中のホルモン濃度測定の結果の解析については既に終了し、45th Annual Conference of the International Embryo Technology Societyにおいて発表を行っており、その後実験を追加し、論文投稿の準備を進めている。さらに、フィリピンカラバオセンターで行った共同研究についても既にAnimal Science Journal誌に速報として発表している。 また、牛のIVG培地に一般的に添加される血清は、顆粒層細胞の黄体化を促進し、卵胞退行過程と類似して、プロジェステロン (P4) 産生を促進することが明らかになっており、黄体化を抑制できる無血清培地の開発の研究を進めている。現在のところ発生能を有する卵子を生産可能な培地の開発には至っていないものの、これまでに、培養中の未発育な状態での成熟分裂の再開を防ぐ作用のあるCilostamideの添加により、成熟培養後の卵子核成熟率を向上させることができることが分かっている。 以上の研究進捗状況から、今後より一層の進展を必要とする点もある一方、今年度に限っても筆頭著者として3報の論文発表を行っている点、国際共同研究において成果を残している点を考慮し、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、遺伝子発現解析のほか、多様な分子生物学的手法を有し、牛やヒトの原始卵胞や二次卵胞の培養で実績のあるイギリスのエジンバラ大学細胞生物学研究所・Dr. Telfer研究室に拠点を移して研究を継続する。生体牛での内卵胞膜細胞の採取が困難であったことから、代替手段として食肉検査場由来の牛卵巣を用い、卵巣内の胞状卵胞数による分類を行う。各卵巣から、卵胞壁の血管の分布や性ステロイドホルモン濃度により発育過程にある卵胞を選抜し、採取する。採取した卵胞を卵胞の大きさにより分類し、内卵胞膜細胞や顆粒層細胞由来の各種成長因子の卵胞発育における遺伝子発現動態を明らかにすると共に、各種成長因子が卵巣予備能と卵胞機能の関連性に寄与しているかを検討する予定である。また、無血清培地におけるIVGについて、血清代替物の利用や培養プレートの影響といった基礎的な検討を進め、黄体化を抑制すると共に、発生能を有する卵子を生産できる培養系の確立を目指す。さらに、これまでの所属教室における研究により、抗酸化作用のあるAstaxanthinを血清添加培地に加えることで、培養液中のP4産生を抑制し、卵子発生能を向上させることが明らかになっており、血清添加培地における黄体化を抑制させる観点での研究も視野に入れる。得られた結果を元に、各卵胞発育時期における遺伝子発現量およびホルモン濃度を基準とし、種々の成長因子を時期特異的に培地に添加して、卵巣予備能が低い牛でも高い卵子発生能を得ることが可能な卵胞発育モデルの確立を目指す。
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