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2018 年度 実績報告書

精神障害を抱えた人たちのリカバリーの物語――就労支援の現場に着目して

研究課題

研究課題/領域番号 18J13942
研究機関立命館大学

研究代表者

駒澤 真由美  立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)

研究期間 (年度) 2018-04-25 – 2020-03-31
キーワード精神障害 / リカバリー / ライフストーリー / 一般就労 / 福祉的就労 / 当事者 / 障害開示 / スティグマ
研究実績の概要

行政は「就労そのものが治療的であり、リカバリーのための重要な要素である」と精神障害者の一般就労を促進している。本研究では、20名の精神障害当事者にライフストーリーインタビューを実施し、これまでの就労経験、就労の場、非就労をそれぞれ本人がどのように意味づけているのかについて明らかにする。そのことを通じて、今後どのような就労支援をすればよいのか、あるいはどのような支援をしないほうがよいのかを提言できる。
2018年度は、福祉的就労と一般就労における支援現場を調査し、2本の論文にまとめた。1本目では、福祉的就労を20年間続けてきた当事者の語りから、本人にも明確に実定的な定義ができないことこそが精神障害当事者にとってのリカバリーの特徴であると明らかになった。リカバリーは周囲の人々との対話や関係性の中で構築されていくプロセスであることを示した。
2本目では、精神障害を開示して一般就労することが当事者の世界に何をもたらすのかを3名の当事者の語りをもとに再考した。その結果、障害を開示することが必ずしも精神障害者の一般就労継続に資するとは限らないこと、就労継続には本人と周囲の人たちとの関係性がより重要な要素であること、就労に伴い精神障害を開示することにより新たなスティグマが生起される可能性が明らかになった。
国の制度や支援システムが当事者の自己決定を尊重すると主張しながら、実際には精神障害当事者にその判断と選択をゆだね困難を強いている可能性がある。そのため支援する側は,当事者本人がその制度やサービスの利用を決定する理由や方法について細心の注意を払う必要があること、個人の多様性の問題に帰結させることができない構造的な問題が社会の側に潜んでいることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

申請書の年次計画では、2018年度に実施すべきこととして次の3点を掲げている。
1、2か所の就労支援施設にそれぞれ約1か月間フィールドワークに入り、支援現場の参与観察をしつつ、精神障害当事者(8名)と支援者(4名)へのインタビュー調査を行う。2、参与観察とインタビュー調査の結果を分析し、1本の論文を執筆し、学術誌に投稿する。3、収集したデータを活用し、障害学国際セミナーでも発表を行う。
これに対して次のとおり調査研究を実施した。
1、一つは就労継続支援B型、もう一つは就労移行支援を主とする2か所の多機能型事業所にそれぞれ数か月にわたってフィールドワークに入った。そこで精神障害当事者(10名)とその支援者(10名)へのインタビュー調査を実施した。加えてグループワークへの参加や利用者への個別面談にて数十名の当事者への聞き取りも行い、各就労支援施設の内実を詳細に把握することができた。2、参与観察とインタビュー調査の結果を分析することで、精神障害当事者が就労支援の現場で「福祉的就労」ならびに「一般就労」をそれぞれどのように体験しているかを詳らかにした。それらが2本の査読付き論文に掲載された。3、障害学国際セミナーでは「精神障害当事者の福祉的就労における現実が社会的に構成されること」を発表し、アジアの研究者との交流も深まった。

今後の研究の推進方策

これまでの研究では、福祉的就労施設に通所している利用者や一般企業で働いている当事者を対象として分析してきた。しかし今後は、「新しい就労」のあり方を模索していくために、社会的事業所などで働いている精神障害当事者への調査を通して「福祉と就労」の関係を相対的かつ総括的に論じていくことを課題とする。
そこで2019年度は、1、「一般就労」でも「福祉的就労」でもない「新しい就労」のあり方を模索する社会的事業所(具体的にはソーシャルファーム・共同連といった組織に参画する事業所)2か所にフィールドワークに入り、これまでと同様に支援現場の参与観察をしつつ、精神障害当事者(10名)へのインタビュー調査を行う予定である。2、インタビュー調査の結果を分析し、「第三の就労としての社会的事業所の多様性」と「精神障害当事者が第三の就労としての共働・共生の場をどのように体験しているか」を明らかにする。その内容をもとに障害学会大会と障害学国際セミナーにて発表を行う見込みである。3、上記テーマで2本の論文を執筆し、学術誌に投稿するとともに、これまでの成果を「精神障害を抱えた人たちのライフストーリー――福祉と就労のはざまで」と題して博士論文にまとめる。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] 精神障害当事者にとっての「リカバリー」とはなにか――福祉的就労施設に20年通所する利用者の語りから2019

    • 著者名/発表者名
      駒澤真由美
    • 雑誌名

      Core Ethics

      巻: 15 ページ: 59-71

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 精神障害当事者は「一般就労」をどのように体験しているか――障害と就労のライフストーリー2019

    • 著者名/発表者名
      駒澤真由美
    • 雑誌名

      立命館生存学研究

      巻: 2 ページ: 281-291

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] A Study on “Welfare-based Employment” for People with Mental Disorders2018

    • 著者名/発表者名
      Mayumi Komazawa
    • 学会等名
      障害学国際セミナー
    • 国際学会

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公開日: 2019-12-27  

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