研究課題/領域番号 |
18J14012
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
高萩 航太郎 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 異質倍数体 / ゲノム / トランスクリプトーム / ホメオログ / 高温ストレス |
研究実績の概要 |
代表者のこれまでの研究で、温帯産草本のミナトカモジグサ属植物の異質倍数体種Brachypodium hybridumとその一方の祖先二倍体種は栄養成長期間の高温ストレスに対して耐性をもち、他方の祖先二倍体種は耐性をもたないことが分かっている。これら三種の高温ストレス耐性を事例として、異質倍数体植物の環境ストレス応答を調査し、B. hybridumにおける高温ストレス耐性獲得の要因となる遺伝子や小RNA分子を同定することを目的に、時系列トランスクリプトーム解析を進めた。 三種を通常環境と高温環境で育成し、葉のサンプリングを3日おきに5時点分行った。サンプリングした葉のRNA-seq解析を行い、得られたシーケンスデータをミナトカモジグサの参照ゲノム配列にマッピングし、遺伝子発現データを得た。 また、これまでに三種を高温環境下で登熟期まで育てたところ、異質倍数体種であるB. hybridumのみが通常環境下で育てた植物と同程度の数の種子を形成することを観察していた。そこで、生殖成長期間における高温ストレス耐性の再調査を行い、B. hybridumのみが高温環境下でも種子を残すという現象の再現性を確認した。この形質は農業的にも有用な形質であり、その背景にある雑種強勢のメカニズムを理解するため、出穂の直前及び直後の葉に関しても上記の時系列サンプルとともにRNA-seq解析を行った。 さらに、モデル植物のミナトカモジグサ属植物の知見や解析技術をもとに、異質倍数体の作物の研究に発展するため、パンコムギにおける共発現ネットワーク解析を行った。公共利用可能なRNA-seqデータを集め、重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析によりパンコムギの同祖遺伝子を22個の共発現モジュールに分け、同祖遺伝子間で異なる共発現モジュールに属する遺伝子を網羅的に同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA-seq解析によって得られたシーケンスデータにいくつかクオリティの悪いデータがあり、それらのやり直しを検討している。しかし、当初の研究計画に加え、異質倍数体植物の高温ストレス応答の理解を出穂期まで展開したことで、異質倍数種であるB. hybridumが高温環境下においても通常環境下で育った植物と同程度の数の種子を形成するという有用形質を発見した。さらに、その背景にある転写制御を解明するために、出穂の直前及び直後の葉のトランスクリプトーム解析を進めることができた。また、異質倍数体植物のゲノム・トランスクリプトームデータの解析手法を、異質倍数体の作物であるパンコムギのトランスクリプトームデータに適用し、同祖遺伝子の発現パターンの多様性を網羅的に明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
異質倍数体植物の環境ストレス応答には、同祖遺伝子毎の多様な転写制御が示唆されているものの、転写制御に関わる小RNA分子等との関連について詳細な理解がなされていない。本研究では異質倍数体植物の環境ストレス応答の理解を、タンパク質をコードする遺伝子とともに、ncRNAやsORF遺伝子といった小RNA分子にも拡張する。これまでに、異質倍数体種B. hybridumとその祖先二倍体種(B. distachyon及びB. stacei)を、通常環境と高温環境で育成し、葉のサンプリングを行った。また、サンプリングした葉から抽出したTotal RNAを用いてmRNA用のシーケンスライブラリを作製し、高速シーケンサーを用いてRNA-seq解析を行い、遺伝子発現データを得た。今後は、small RNA-seq用のシーケンスライブラリを作製し、small RNAのシーケンスを行う。シーケンスデータがそろい次第、各サンプルの小RNA分子の発現量を求める。利用可能な変数セット(RNA分子の発現量と外環境)から種間、祖先ゲノム間、環境ストレス耐性の有無等を分類できる少数の有効な変数セットを得るために、教師なしの機械学習を用いたデータ構造の分類と変数選択を行う。選択されたRNA分子のセットとB. hybridumの環境適応性の因果関係を、深層学習を用いたニューラルネットワークによりモデリングする。選択された重要なRNA分子の発現量と外環境を説明変数に、高温ストレス耐性の指標となる遺伝子群の発現を目的変数にする。具体的には、高温耐性獲得への関与が知られているHSFやHSP等の発現パターンを指標として高温ストレス耐性が発動する時点とその要因となるRNA分子を明らかにする。
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