2020年度は、カラチ市内およびイスラマバード市内での現地調査を2回実施し、バングラデシュ(旧東パキスタン)からカラチに移住してきたベンガル人やロヒンギャの人々へのライフヒストリーの聞き取り、特にカラチ市の路上での物売りや物乞いに従事しているベンガル人やロヒンギャの子どもたちおよびその母親へのインタビュー調査、NGOsや政府機関、現地の研究者などからの聞き取りを実施した。 カラチに住むベンガル人やロヒンギャの人々の移住の経緯や背景について当事者たちへの聞き取りを行い、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーの3か国にわたる広域的な地域研究の視点から分析している研究は他にない。現在のカラチにおけるベンガル人やロヒンギャの人々の暮らしや物売りや物乞いに従事している子どもたちやその家族に対して複数年にわたる質的なインタビュー調査を行うことも新たな試みである。 人間の安全保障研究の分野においても、子どもたちや女性たちの「語り」から、子どもたちや女性たちが安全や安心をどう捉えているか検証するアプローチは、類似の研究がなく学問的意義が高い。これまでの研究の成果は、11月に東京大学で開催された国際開発学会・人間の安全保障学会2019年度共催大会にて、ラウンドテーブル・ディスカッション『人間の安全保障と国際開発の視点から「子どもの安全保障」を考える』を企画し、「無国籍移民の子どもの安全保障:カラチのロヒンギャの子どもの事例」として報告を行った。
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