研究課題/領域番号 |
18J14093
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
兼内 伸之介 広島大学, 総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 人形 / 彫刻 / 美学 / 人形劇 / パフォーミング・オブジェクト / Seeing-in |
研究実績の概要 |
人形を美学的に考察するため、比較対象である彫刻を美学的に考察する方法論を整理し、ウォルハイムの「seeing-in」理論や、ランガーの空間論から議論を展開した。この成果は、当初予定していた作品外部の空間と人形作品との関係を、美的な経験と関連させながら分析する際に応用可能である。 また、視野を人形劇に広げることで得られた成果もある。一つは、アメリカを中心に、1960年代から記号論を用いて人形劇が美学・哲学的に考察され始めていたことが判明したことである。人形劇に関する研究に触れていく中で、演劇で用いられる人形も彫刻同様、ヒトガタではなくなってきている現状を知ることができた。小道具とは異なり、舞台上で一定の役割を与えられた事物をperforming objectsと呼称しており、演劇で用いられる人形は、その最たるものとして登場する。こうした背景の下、近年、演劇の中で事物が果たす役割が積極的に議論されている。事物にキャラクターを付与して、一定の役割を与えることを、美学・哲学的に議論しているため、performing objects論は、人形論にとっても非常に刺激的である。 こうした議論を通して改めて見えてきたことが、成果の2つ目である。特に、performing objectsの議論では顕著だが、人形劇研究にとって、演劇で使用される人形がそれ単体で作品として評価されることは、非常に少ない。この点で、日本の工芸人形とは大きな差がある。工芸人形は、物語上での役割や、舞台上での動きがなくとも、それ単体で作品として評価されうるからだ。こうした点では、日本の工芸人形は彫刻の鑑賞に近しい。しかしながら、人形に独特な美的な特殊性があるとすれば、その問題を追及しているのは人形劇研究であり、人形の美的な特殊性の点では工芸人形も関連した特徴を有していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
豪雨災害の被害や、祖父の逝去などが原因で、本年度の遠方への調査は断念せざるを得なかったが、人形を美学的に考察するための方法論を想定していたよりも、充実した形で調査することができた。その成果を国内での学会発表や、学会論文として投稿することができた。また国際発表への発表申し込みも受理されており、次年度に成果を公表することも決定している。 史料収集の面で十分な結果を出せたとは言えないが、人形や彫刻を美学的に議論するための素地を整えることができた点では、想定以上の成果を得ることができたといえる。本年度に得ることができた成果をもとに、次年度の計画もより明瞭になったため、(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
おもに、以下の二点を今後の推進方針として掲げる。1.当初の予定通り、日本の工芸人形に関する史料に基づいた調査を行う。2.彫刻と人形の比較や、海外での人形劇研究から得ることのできた知見をもとに、人形や彫刻を美学的に論じるための地盤をより確かなものにしていく。 特に、2.に関しては、現在の日本での研究状況に大きく影響を与えうる成果であることが明らかであるため、当初の計画以上にこちらに力を注ぐこととなる。研究実績の概要の部分でも記述したように、人形劇研究で人形を扱う観点と、日本の工芸人形や美術人形を扱う観点は、類似点と相違点がある。こうしたことを意識しながら比較を行っていくために、1.の課題を追及していく。
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