研究課題/領域番号 |
18J14100
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
市川 智大 岐阜薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 不均一系触媒 / フロー反応 / マイクロ波 / 水素製造 / 低エネルギー / 飽和環状炭化水素 / 水素キャリア |
研究実績の概要 |
水素はクリーンな次世代エネルギーであり,石油等の代替燃料として注目されているが,水素ガスの製造・運搬・貯蔵の各工程で大量のエネルギーや相応の設備が必要である.近年,常温で取扱い容易な液体の有機化合物(アルコール類や環状炭化水素など)を水素貯蔵物質として利用する方法論の開発が進められている. 申請研究である、アルコール類からの水素製造検討の過程で,飽和環状炭化水素であるメチルシクロヘキサン (MCH) の脱水素反応が効率良く進行することを見出し,まずMCHからの水素製造法を確立することとした. ガラス製直管に粒状活性炭に担持された白金触媒(Pt/CB)を充填し,マイクロ波(MW)を照射しながら,反応基質兼溶媒であるMCHを常圧で触媒管に移送したところ純粋な水素ガスが生成した.MCHを循環移送したところ反応はほぼ完結し水素ガスを収率95%,純度99.7%で得る事ができた.長時間運転では,少なくとも12時間は触媒の劣化なしに高純度の水素を連続製造することができた.この反応ではPtは6万回以上触媒回転していた.本反応が効率良く進行するメカニズムも明らかにしている.すなわち,MWにより選択的に加熱された粒状活性炭上でPtとMCHが接触することで脱水素反応が進行するのである.さらに,本反応は脂環式化合物の脱水素型芳香化反応にも適用可能であった. アルコール類からの水素製造については,2-プロパノール(2-PrOH)を使用した場合に効率良く水素が発生することが判ってきた.さらに,2-PrOHから取り出した水素を直接利用して,反応管内で他の還元性官能基の還元反応が進行することも確認しており,アルコールからの水素製造法と並行して,取り出した水素の有機反応への適用についても検討を進め,2-PrOHを水素源とすると,還元性官能基の接触水素化や芳香族化合物の核還元反応が進行することも確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究実施計画に従い,「アルコール類からの水素製造」と,その過程で新たに見出した「飽和環状炭化水素であるメチルシクロヘキサンの脱水素反応」の開発研究も併せて推進し,それぞれ着実に成果を上げ,当該研究を含む学術論文3報を公表した.特にメチルシクロヘキサンからの脱水素反応は,ACS Sustainable Chem. Eng.誌に掲載され,新聞3誌で報道された.また,この方法は,メチルシクロヘキサン以外の完全に飽和した脂環式化合物の脱水素型芳香化法として利用できることも判った.飽和脂環式化合物の芳香化反応は,大きな吸熱反応でありエネルギー的に反応しにくいため報告例はほとんどない.現在,触媒を始めとする反応条件をチューニングすることで効率が向上することも判ってきており,さらに条件を精査することで一般性ある方法としての確立も見込める. アルコール類からの水素製造法についても,2-プロパノールを溶媒兼水素キャリアとすると,水素を取り出せることも見出しており,論文として成果をまとめている段階である. さらに,2-プロパノールを溶媒兼水素源とした芳香族化合物の核還元反応にも適用可能である.
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今後の研究の推進方策 |
[1] 平成30年度で完結しなかった2-プロパノール(2-PrOH)からの水素製造を利用した還元反応を完成する. (A) ヘキシルベンゼンの核還元反応条件を最適化する(触媒金属,基質濃度,装置の条件など).(B) 基質一般性(還元性官能基を持たないベンゼン類,ピリジン類,ピロール類,フラン類)を検討する.(C) 還元性官能基(アルケン,ニトロ,カルボニル)を持つ芳香族化合物の官能基許容性を確認する.(D) さらに様々な還元性官能基の接触還元反応を検討した上で,水素生成量を還元反応が進行する限界まで削減し,水素ガスを漏出しない連続フロー接触還元反応系を確立する. [2] 脂環式化合物の脱水素型芳香化反応を確立する. (E) 触媒検討 (触媒金属,担体),装置の運転条件を精査し,ワンパスで効率良く進行する条件を見つける.(F) 反応が完結しない場合は,反応溶液を循環させて反応を完結する.(G) 脂肪族環内に複素元素を持つ環状化合物を含む幅広い基質を検討し,一般性ある方法論として確立する. [3] 重水素標識化に着手する. (H) 重水を2-PrOHに添加して,ビフェニルに重水素が導入されるか否かを評価する.この際,必要であれば補助溶媒も検討する.(I) 触媒金属,装置の運転条件をチューニングし,ワンパスで効率良く重水素標識化する方法を開発する.(J) 非複素芳香族化合物の他に,複素芳香族化合物,アルカン類,アミンやアルコールなど(いずれも還元性官能基を持たない)を基質として,重水素を導入する.
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