研究実績の概要 |
稀突起膠細胞腫の発生メカニズムや病態には未解明な点が多く残されており、由来細胞が不明であることもその一つである。これまでの研究により、イヌの稀突起膠細胞腫の発生頻度はヒトと異なり非常に高く、また、短頭種に好発することが判明した。そのため、ヒトで得られにくい知見がイヌから得られる可能性が高いと考えられる。本年度は、(1)イヌの稀突起膠細胞腫の病理組織学的解析、(2)稀突起膠細胞腫細胞株の樹立および(3)腫瘍幹細胞(TIC)の性状解析を中心に研究に取り組んだ。 イヌの退形成性稀突起膠細胞腫の組織標本27例を免疫組織化学的に検討したところ、本腫瘍細胞は高率に稀突起膠細胞前駆細胞(OPC)マーカー(Olig2, SOX10, PDGFRα, NG2)を発現していた。また、フレンチ・ブルドッグから得られた退形成性稀突起膠細胞腫の培養細胞について、細胞形態、免疫表現型や腫瘍形成能などの性状を明らかにし、株化細胞として樹立した(株名:AOFB-01)。さらに、この株化細胞に神経幹細胞用成長因子またはOPC用成長因子(OPC-GF)を加えて浮遊培養したところ、いずれもスフェロイドの形成が認められた。連続継代したところ、OPC-GF添加培地でのみスフェロイドが形成された。これらの結果から、イヌ退形成性稀突起膠細胞腫のTICはOPC-GFの添加により自己複製能を維持することが判明した。また、形成されたスフェロイドはOPC-GF添加培地での培養ではOPCマーカーのみを発現して未分化性を維持していたのに対し、分化誘導(血清添加培養)を行うと、GFAPも発現し、多分化能を示すことも明らかとなった。これらTICの細胞性状はOPCのそれと類似していた。以上のことから、イヌの退形成性稀突起膠細胞腫はOPCに由来することが示唆された。
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