研究課題
近年、獣医療の発達に伴って、頭蓋内腫瘍に対する研究が積極的に行われ、イヌでも頭蓋内腫瘍の全容がある程度明らかになってきた。しかし、イヌの頭蓋内腫瘍の疫学や神経膠腫の発生メカニズムに関する知見は限られており、十分とは言い難い。今後の伴侶動物医療において、頭蓋内腫瘍に遭遇する機会はますます増加すると予想される。したがって、イヌの頭蓋内腫瘍の発生状況や生物学的特徴を解明し、病理発生機序を明らかにすることは、獣医療においても極めて重要な課題である。本年度では、国内で飼育されているイヌの頭蓋内腫瘍の発生状況を調査した。頭蓋内腫瘍は、脳実質組織および髄膜などの周囲組織から生じる腫瘍を総称したものであり、その発生率は報告ごとに様々で正確な発生率は明らかでない。地域ごとに繁殖環境や人気犬種が異なることが大きな要因と考える。したがって、正確なイヌの頭蓋内腫瘍の発生頻度を得るには、各国で独立して疫学調査する必要があるが、本邦での報告はない。そこで、本研究では、過去11年間に東京大学獣医病理学研究室で病理診断した症例を対象に頭蓋内腫瘍の発生状況を調査し、海外の調査報告結果と比較検討した。その結果、本研究で得られた知見の多くは海外の報告と概ね一致していたが、日本特有の動向として、①退形成性稀突起膠細胞腫の発生が非常に多いこと、および②頭蓋内組織球性肉腫がウェルシュ・コーギー・ペンブロークに好発することが挙げられた。本研究により、イヌの頭蓋内腫瘍の発生状況に関する新規知見や海外の報告との相違が確認でき、今後、これらの知見がイヌの頭蓋内腫瘍の診断と治療の有用な指標になると考えられた。また、特定犬種に好発する腫瘍は、その発生に遺伝的背景の存在が示唆されることから、今回の結果は原因遺伝子の特定など病態解析を行ううえで有用と思われた。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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