研究課題/領域番号 |
18J14216
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
水谷 雪乃 三重大学, 生物資源学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 細菌叢解析 / 浅海性無脊椎動物 / イプシロンプロテオバクテリア / エラ |
研究実績の概要 |
無脊椎動物のエラという環境は,共生細菌の住処といった点で非常に重要な部位である.深海環境では一部のプロテオバクテリア門細菌が宿主と共生関係にあることが報告されているが,浅海域における無脊椎動物のエラに生息する共生細菌群は,二枚貝から検出されているガンマプロテオバクテリア綱に留まっている.これまでに我々はメタゲノム解析により,メガイアワビのエラDNAより新規イプシロン(ε-)プロテオバクテリア綱細菌(既存種の16S rDNAと89%の相同性)が全細菌リードのうち,約40%を占めることを発見した.そこで,本細菌も深海環境の生物と同様に宿主と共生関係にあると予測し,まずは本細菌の生息環境を探索することを昨年度の目的として,以下の研究を行った. 今後本細菌の単離またはFISH法による定着部位を明らかにする際に,本細菌の簡易的な検出方法または特異Probeが必要となる.そこで,本細菌の存在が明らかになっているDNAより本細菌の16S rDNAの全長を取得し,その情報から特異Primerを作製した.次に上記の特異Primerを用いて,浅海域に生息している巻貝のメガイアワビ,クロアワビ,トコブシ,サザエ,ミヤコドリガイ,二枚貝のオキシジミ,ハマグリのそれぞれエラ部位,また対照サンプルとして,7日間海水中に沈めたスポンジ,海水,小石より本細菌の検出を行った.さらにNGSを用いた細菌叢解析により各種環境の細菌叢全体の把握を試みた.特異Primerによる検出の結果,本細菌はメガイアワビおよびオキシジミより検出された.また細菌叢解析の結果,オキシジミからは検出された全リード中,本細菌はわずか0.45%しか検出されなかったが,メガイアワビでは最大53.9%も占めており,本細菌は宿主間でも非常に近縁であるクロアワビやトコブシには存在せず,メガイアワビにおいてのみ優占していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の交付申請書では,本細菌の特異Primerの作製,各種浅海生物のエラを対象とした細菌叢解析およびメタゲノム解析を研究計画として報告していた.特異Primerの作製および本細菌の生息環境の探索に関しては上記に記した通り,計画に従って進んでおり,研究成果を4件の学会にて発表し,内マリンバイオテクノロジー学会にて優秀ポスター賞を受賞した.もう一つの研究計画であるメタゲノム解析では,本細菌の代謝機能の予測を行うため,細菌叢解析により本細菌が優位に存在していることが明らかとなっている環境DNAを用いて,2x151 bpの条件でIllumina社のHiSeq Xに供し,環境DNA中の遺伝子配列を網羅的にシーケンシングした.得られた塩基配列情報をMegahitによるアセンブルに供したものの,当初予想していたよりもシーケンス効率が悪く,コンティグの数が多くなったため,新規ε-プロテオバクテリア綱細菌の代謝機能の推定に時間を要している. 当初の予定に対して,生息環境の探索に関する研究はおおよそ達成できているものの,代謝機能の推定に関する解析に時間を要していることから,やや遅れていると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はHiSeqを用いた本細菌の代謝機能の推定の際に,データが断片化してしまい予想していたよりも解析に時間を要していることから,今年度はNanopore社のMinIONを用いて長鎖の塩基配列情報を取得し,昨年度に行ったHiSeqにより得られたシーケンスリードを掛け合わせることにより,未培養である本細菌のゲノム情報をさらに詳細に取得する.またそのゲノム情報を基に,既存のイプシロンプロテオバクテリア綱細菌のゲノムと比較し,深海底由来の種に近いのか,陸生生物由来の種と近い遺伝子配列をもつのかを比較する.これにより,本細菌の宿主との関係性を推定するとともに,既存種と異なる代謝機能を明らかにする.また宿主との相互関係に関する情報の他に,今後本細菌の単離を試みる際に必要となる,栄養要求性に関する代謝機能にも焦点を当て解析を行う. 昨年度の研究の結果,本細菌を特異的に検出できる特異Primerの作製に成功した.そこで本年度では,この特異Primerの配列情報を元に特異Probeを作製し,作製した特異Probeがサンプル中の細菌とハイブリダイズされる最適な条件を調べるとともに,作製した特異Probeにより細菌が検出されるかを確認する.上記の試験によりProbeの設計に問題がなければ,以下の試験に進み,標的細菌の検出が困難な場合は再度特異Probe の設計を行う.特異Probeが完成した後,昨年度までにライブラリー化した宿主のエラ組織標本を対象として,超薄切片を作成後,上記の試験において確認した特異Probeおよびハイブリダイズの条件を用いてFISH法を行う.これにより本細菌の定着位置を明らかにする.
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