研究課題
これまでに報告者はドラッグデリバリーシステム担体である糖鎖アルブミンに担持された三価の金触媒、およびプロパルギルエステル基質をマウスに投与し、糖鎖アルブミンが標的とした組織のアミンに対して触媒的アミド結合形成反応を実施することに成功していた(Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 3579)。本研究課題は、この生体内での局所的な触媒的アミド結合形成反応を分子内反応に利用し、抗がん活性環状ペプチドをがん細胞近傍で合成することで、正常細胞への副作用を低減した新たながん治療戦略の提案を目的としている。2018年度報告者はプロパルギルエステルとアミンが同一分子内に共存している種々の直鎖ペプチド基質に対して、金触媒を作用させることで分子内環化反応が進行し、環状ペプチドが生成することを見出した。続いて、環化反応の進行に伴った毒性の発現について、がん細胞を用いて評価した。その結果、環状ペプチドの生成に伴って微弱ながん細胞への毒性の発現が認められた。この際興味深いことにがん細胞上に存在しているアミンに対して直鎖ペプチド基質が反応した場合、強い細胞毒性の発現が認められた。このようながん細胞にペプチドを結合させる方法は、新たながん治療戦略に展開できる可能性が毒性試験の結果から示唆されたため、さらなる検討を行った。すなわち、ペプチド基質と金触媒を、がん細胞を移植したマウスに投与し、がん細胞上のアミンに対して触媒的アミド結合形成反応を実施したところ、腫瘍の増大抑制効果が認められた。以上の結果から、触媒的アミド結合形成反応を、新しいがん治療戦略へと利用できる可能性を見出した。また、この反応は環化により強い毒性を発現できるペプチド基質を創出することで、局所的な環状ペプチドの合成によるがん治療戦略への展開も期待できる。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Journal of Carbohydrate Chemistry
巻: 38 ページ: 127~138
10.1080/07328303.2019.1578886