研究課題/領域番号 |
18J14277
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大橋 啓史 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | HCV / AhR / 脂肪滴 / flutamide |
研究実績の概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)は感染後に細胞内環境を劇的に変化させ、肝細胞内に脂肪滴を過剰蓄積させるものの、その分子機構は未だ未解明である。申請者は芳香族炭化水素受容体(AhR)の阻害剤flutamideを利用して、脂肪滴産生機構の解析に取り組んでいる。これまでAhR下流遺伝子の中で、CYP1A1が脂肪滴産生に寄与する事を明らかとした。そこで、flutamideよりも選択的かつ強力なAhR阻害剤を探索するとともにAhR下流遺伝子の中で、シトクロムp450 1A1(CYP1A1)が責任因子として脂肪滴並びにHCV産生に寄与するかを検討した。化合物スクリーニングにより、flutamideよりも低濃度で強力にAhR活性およびHCV産生を共に低下させるflutamide誘導体を得た。このflutamide誘導体を処理した細胞ではこれまでの結果と同じく脂肪滴量が低下した。この条件下でCYP1A1を強制発現させると、HCVの感染を問わず脂肪滴の産生が回復した。また、siRNAを用いてCYP1A1をノックダウンしたHCV感染細胞から産生される感染性HCV量は低下した。さらに、AhR活性化剤(TCDD)を処理しAhR下流遺伝子の発現を上昇させたHCV感染細胞から産生される感染性HCV量は化合物未処理細胞よりも上昇したが、CYP1A1をsiRNAでノックダウンした細胞でのみHCV産生が低下した。これらの結果はAhR下流遺伝子の中でCYP1A1が感染性HCV及び肝細胞内脂肪滴産生を制御する責任因子の一つである事を示唆する。すなわちHCVはAhR-CYP1A1経路を利用して効率的脂肪滴形成、並びに感染性HCVを産生する可能性が考えられる。上記の研究成果は学術論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は精力的に研究に取り組み、数多くあるAhR下流遺伝子の中でCYP1A1が肝細胞での脂肪滴蓄積及び感染性HCV粒子産生に寄与する責任因子の一つである事を明らかとした。HCV感染後に引き起こされる細胞内環境変化の分子機構は未だほとんど未解明であり、今回の結果はこのメカニズムを解明する上で重要な知見である。また、flutamideよりもAhR選択性が高く且つ強力な阻害剤を同定した。この化合物はAhRによる感染性HCV産生の意義と、がん化への寄与の解析に利用可能であると期待される。すなわち、次年度以降の研究に有用な知見及び材料を得た点で順調に進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果より、AhRによる脂肪滴産生制御と感染性HCV粒子産生の分子機構を明らかにした。これを踏まえ、次年度ではAhRを介した感染性HCV産生の意義と、がん化への寄与を明らかにする事を目指す。まずAhRを利用したHCV産生の意義を明らかにするため、HCV感染細胞に新たに同定したflutamide誘導体を含むAhR阻害剤を処理し薬剤耐性HCVを誘導するとともに、AhRノックアウト細胞を作成しこの細胞からの感染性HCV産生能を評価する。また、HCVタンパク質発現による不死化細胞の悪性形質転換にAhRがどのように影響するかの解析からAhR依存的脂質代謝機構の肝発がんへの寄与を評価する。 これらによってAhRーHCV相互作用による肝脂肪化と肝発がんおよび、感染性HCV産生における意義を明らかにすることを目指す。
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