本研究は、岩手県、宮城県の東日本大震災の津波被災市街地を対象とし、行政による空間整備の計画と実施の実態と、被災した中小企業の復興プロセスの実態を分析する。これにより、被災後の市街地整備における産業活動の位置づけと、市街地整備と被災中小企業の再建の実態との関係を明らかにし、津波被災市街地における産業活動の回復を実現する復興都市計画のあり方について示唆を得ることを目的とする。 面的な市街地整備事業を実施した市街地19市町村50地区を事例として、「暫定的な空間利用」と「本格的な整備の計画」の2つの側面から、市街地整備における産業地の整備の計画内容を明らかにした。次に経済センサスの個票データ等を用いた事業所単位の時系列パネルデータを独自に作成し、被災前後の事業所の動態の分析を行った。さらに計画内容、整備過程の工夫によって、事業区域内の事業所の再開、営業継続に効果が期待される、気仙沼市鹿折地区、大船渡市大船渡駅周辺地区、釜石市東部地区西側市街地部をケーススタディの対象とした。 東日本大震災津波被災地での復興都市計画による空間再編は、今後評価されることとなるが、多くの地区では復興都市計画の実施によって安全性の向上や産業空間の再編が目指された。しかし、安全性の向上や産業空間の再編は、その期間の事業所の営業継続に負の影響を与える、トレードオフの関係が存在することが本研究で明らかになった。 トレードオフの関係がある中で、なにを優先するかは、最終的には、防災の必要性、産業の特徴等を含めた地域特性を踏まえた、地域(行政、住民、企業等の多様な主体)の選択によらざるを得ないが、少なくとも計画者はそうした復興都市計画の各計画案のメリット、デメリットを認識し、選択の材料として提示できるようにしなければならない。
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