研究課題/領域番号 |
18J14424
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村瀬 正恭 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | トポロジカル物質 / ディラック電子系 / 超伝導 / 電子構造 / 層状ビスマス化合物 |
研究実績の概要 |
我々はトポロジカル絶縁体やトポロジカル超伝導を誘起する強いスピン軌道相互作用を持つ元素を含んだ化合物に着目し、これらの状態を発現しうる新規物質の開拓を目的とし研究を行った。特に非放射性元素で一番スピン軌道相互作用が強い元素であるBiに着目し、かつBiの正方格子を含んだ112-typeの化合物でトポロジカル超伝導体の可能性を秘める物質の開拓を行った。正方格子は単原子層状態であるとグラフェンのようにディラック電子を有することがわかっており、ディラック電子はトポロジカル絶縁体と一般的な絶縁体の臨界点物質であることから、ギャップを開けることでトポロジカル絶縁体になると考えられる。更に112-typeの構造は鉄系超伝導体に代表されるように超伝導を発現する可能性を秘めている。 今年度はSrAgBi2という化合物に着目し、単結晶育成を試み世界で初めて単結晶育成に成功した。第一原理計算により、フェルミ準位近傍では波数空間全域にわたって直接遷移型のバンドギャップを持つことを明らかにし(電子構造としてはホールと電子を持つセミメタルになっている)、トポロジカルな表面状態が現れる可能性を見出した。一方で輸送特性を評価したところ、室温から2Kまでは金属的な振舞いを示した。研究室で独自作製した断熱消磁冷却機構を用いて0.2Kまでの測定を行ったところ、1.3Kで超伝導転移することが判明した。以上のことからこの物質ではトポロジカル超伝導状態が実現されているのではないかと考えられるため、今後は表面電子状態の観測を行うとともに、輸送特性からマヨラナ粒子の検出を行っていく。更に同様な結晶構造を持つBiを含んだ化合物の単結晶育成も行い評価していく予定である。 これらの研究成果について今年度は国内、国外の学会を通して4件の発表を行っている。更にこの成果を報告するべく現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は層状ビスマス化合物SrAgBi2に着目し、単結晶育成を試み世界で初めて単結晶育成に成功した。しかしながら、初期にできた結晶には既存の超伝導体であるSrBi3が含まれていたため、SrAgBi2固有の超伝導特性を評価することができなかった。そこで結晶育成方法を見直し、パラメータの最適化に注力した。最終的に仕込み組成をわずかにAg過剰で秤量することで、SrBi3を含まない単相のSrAgBi2の育成が可能であることを突き止め、超伝導特性の評価を行うことができた。 電子構造を第一原理計算により詳細に評価したところ、フェルミ準位近傍では波数空間全域にわたって直接遷移型のバンドギャップを持つ半金属であることを明らかにした。このバンドギャップ中には価電子帯と伝導帯間のバンド反転が生じており、トポロジカルな表面状態が現れる可能性が考えられる。 輸送特性について述べると、室温から2Kまでは金属的な振舞いを示した。研究室で独自作製した断熱消磁冷却機構を用いて0.2Kまでの測定を行ったところ、1.3Kで超伝導転移することが判明した。以上のことからこの物質ではトポロジカル超伝導状態が実現されているのではないかと考えられる。更にAgサイトをZn置換することにも成功しており、超伝導転移温度は低下するものの、全率固溶する可能性も考えられるためAgサイトを完全置換したSrZnBi2も超伝導を示す可能性を見出したという点でさらなる新規物質開拓の可能性も見い出せた。以上のことからこと、当初の研究計画に対して順調に進んだと言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に発見した層状ビスマス化合物SrAgBi2と類似した構造を持つ物質でSrサイトやAgサイトを置換したような化合物の育成を行う。例えばSrサイトはアルカリ金属、アルカリ土類金属、そして希土類元素で、Agサイトは遷移金属で置換可能であり、バラエティに富んだ化合物育成が可能であると考えられる。置換した化合物を育成し輸送特性の評価を行うことでさらなる超伝導体の開拓を進めるとともに、より高温で超伝導を示す物質を求めていく。同時に育成に成功した物質に関しては、第一原理計算を用いて電子構造解析を行いSrAgBi2と同様にトポロジカルな表面状態の有無について可能性を探る。更に順良な結晶では極低温、強磁場で電気抵抗率に現れる量子振動を解析することで輸送特性の観点からトポロジカルな表面状態の有無について議論する予定である。さらに他研究機関との共同研究を進めることで輸送特性だけでなく、角度分解光電子分光や走査型トンネル分光を用いることで光学的な観点から物質表面に現れるトポロジカル表面状態の観測をおこない、トポロジカル超伝導の可能性を探る予定である。 一方でBi正方格子を持つ化合物の中でP4/nmmの空間軍医属する物質では、物質内部の電子構造にディラック電子を有することが期待される。しかもそのディラック電子は対称性の要請により、ディラック点にギャップを開けることなく存在し、かつその点が線ノードを描くディラックノーダルライン半金属(DNLS)を実現できる。そういった物質を見つけ出し量子振動解析を用いた電子構造解析も進めていく予定である。
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