近年、気候変動により、炭素プールとしての森林土壌の重要性が指摘されている。その中で、土壌微生物群集間の相互作用による有機物分解の抑制が、炭素循環の主要な調整機構として注目を集めている。本研究では、ある生物の遺伝子の機能が、森林生態系の外生菌根菌-腐生菌間の相互作用による土壌有機物の分解速度の抑制機構を解明することを目的とした。 平成31年度には、平成30年度からの微生物群集の時空間変動性に関する解析を引き続き行った。その中で、土壌微生物群集の季節変動が、土壌特性の季節変化や樹木のフェノロジーから影響を受けていることを明らかにして、その成果をFrontiers in Microbiology誌に発表した。また、土壌真菌群集の空間分布が気候・土壌特性・樹種構成によって説明できることも明らかにし、その成果を国際誌に投稿中である。これらの知見に基づき、微生物群集間の相互作用が土壌有機物の分解速度に及ぼす影響を明らかにするために、コメツガの成木7個体の周囲にトレンチ処理を行い、セルロースろ紙を分解させる野外実験を行った。また、その近くの樹木を含まない7ヶ所でも同様のトレンチ処理と分解試験を行った。その結果、分解率は樹木のある調査区よりも樹木のない調査区で大きくなった。室内実験による補足データは平成31年度中に取得できなかったが、野外実験の結果は、処理区間での菌類ギルド組成の変化が分解速度に影響を及ぼしていることを示していた。これらの結果から、菌類ギルド間の相互作用は有機物分解の初期から分解率に影響を及ぼす重要な要因になることが示唆された。
|