研究課題/領域番号 |
18J14502
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上田 毅 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質 / ケミカルラベル / 不可逆阻害剤 / 生細胞 |
研究実績の概要 |
タンパク質の化学修飾は生命現象の解明や医薬品開発のための基盤技術として期待されています。例えば、タンパク質に蛍光色素などを修飾すると、タンパク質の動態解析などが可能となる。しかし、既存の方法では天然タンパク質を修飾できない、本来の細胞環境を乱してしまうなどの問題がある。そのため、遺伝子工学技術を用いずタンパク質を細胞環境で有機化学的に修飾できるリガンド指向性化学が注目されている。本手法で天然タンパク質の化学修飾が可能になってきたが、これまでのラベル化剤は反応速度が遅く反応効率も低いため、修飾したタンパク質の機能解析は限られていた。そこで、より迅速かつ高効率なタンパク質化学修飾法の開発に取り組み、新たにN-アシル-N-アルキルスルホンアミド(NASA)構造を反応基とする、リガンド指向性NASA化学を開発した。また、これまでタンパク質の動態や機能解析のツールとして応用されてきた化学修飾法をタンパク質の機能制御に応用し、がん治療の創薬標的として注目されているHsp90の不可逆阻害剤開発に展開した。Hsp90の結晶構造の知見を基に、既存のリガンドPU-H71に適切な長さのリンカーとNASA反応基を連結したPU-NASAを合成した。Hsp90はがん関連タンパク質を安定化するシャペロンとしての機能を有するので、PU-NASAがこのシャペロン活性を不可逆的に阻害するか評価した。その結果、PU-NASAを処置した乳がん細胞ではPU-H71に比べ、タンパク質が顕著に分解されていることがわかった。このことから、PU-NASAはHsp90と共有結合を形成するため、細胞洗浄操作によりHsp90から解離せず、強い阻害活性を示し、一方、PU-H71は細胞洗浄操作によりHsp90から解離するため、阻害活性が低下していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リガンド指向性化学の反応基が不可逆阻害剤の反応基に応用可能であることを示し、リジン残基を標的とする初めてのHsp90不可逆阻害剤の開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
従来の不可逆阻害剤開発は主にリガンド結合サイト近傍にシステイン残基を有するタンパク質を対象に行われてきたので、今後は、NASA反応基がリジン残基と反応する特徴を有するため、標的タンパク質を拡張できることが期待できる。そこで、これまであまり標的とされてこなかったタンパク質間相互作用の不可逆阻害剤開発に取り組む。
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