Heat shock protein 90 (Hsp90) はATP依存的な分子シャペロンであり、細胞内において様々な蛋白質のフォールディングを制御している。このHsp90のシャペロン活性は、特にがん細胞の増殖や生存に関わる変異型がん遺伝子産物の安定化に必要不可欠である。その一方、正常蛋白質のHsp90への依存性は低いため、Hsp90はがん治療の新たな創薬標的として有望視されている。Hsp90の構造や活性は細胞内環境に大きく影響を受けるため、より正確なHsp90阻害剤評価のためには、本来のHsp90複合体状態を反映する生細胞での評価が重要である。一方、従来の生細胞での阻害剤評価は、がん関連蛋白質の分解を指標に行われており、Hsp90に対する結合活性や様式を直接検出する評価系は存在しないのが現状である。 そこでまず、リガンド指向性NASA化学によるHsp90ラベル化の競合阻害実験を用いて、細胞内で既知のHsp90阻害剤の結合活性を評価できるか検討した。その結果、PU-H71、Geldanamycin、Ganetespib、BIIB021の阻害剤濃度依存的にラベル化の阻害が確認でき、EC50値を指標にHsp90阻害剤の結合活性を評価することが可能であった。一方、親和性の低いPU-WS13やアロステリック阻害剤であるGeduninではラベル化の阻害が見られなかったことから、本手法はHsp90のN末ATP結合サイトに高い親和性で結合する化合物を特異的に検出できることが明らかとなった。さらに本手法を薬剤スクリーニングに適用すると、1280個の化合物を含むライブラリーからHsp90に結合する化合物を新たに見出すことに成功した。この結果から、リガンド指向性NASA化学によるタンパク質修飾が新しい阻害剤を探索する戦略として有用であることが示された。
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