研究課題
本研究の目的は、統合失調症が引き起こす海馬内神経伝達異常のメカニズムの解明である。私は、in vitro 海馬急性スライス標本において苔状細胞の神経活動がsharp wave(以下、SW)の活動を反映することを示し、その苔状細胞が統合失調症による神経伝達異常のメカニズムに寄与すると仮説を立てて研究を進めている。In vitro標本における結果を裏付けるため、生体マウスからSWを記録すると同時に苔状細胞からのin vivoパッチクランプ記録法の確立に取り組んだ。苔状細胞が海馬の深部に低密度に存在していること、脆弱であること、近傍に位置する他の細胞との区別が困難であることから、この実験を再現性良く成功させた知見はなかった。本研究では、脳表から標的である苔状細胞までの深さ・座標や、電極の刺入速度や刺入時に電極先端にかける圧力等の検討を行うことで安定して記録を取ることに成功し、これまでに合計9個の苔状細胞の膜電位とSWの同時記録のデータを取得した。現在、in vitroと同様の結果が得られるか解析を進めている。In vivoの膜電位記録はin vitro急性スライス標本における記録とは異なり、切断される神経線維や結合が少なく、様々な領域からの入力が複雑に混ざるため、in vivoにおける正味の膜電位変動を測定するのは容易ではない。そのため、in vivoの膜電位記録に対して最適な解析手法を検討している。検討段階だが、in vitroの結果と同様にin vivoにおいても苔状細胞はSWに応答した活動を示すと見込んでいる。
2: おおむね順調に進展している
本研究を進める上で、in vitro標本の結果との整合性を図るために苔状細胞からのin vivoパッチクランプ記録と局所場電位同時記録の手法を世界に先駆けて確立した。また、第48回北米神経科学学会では本研究成果を含めた内容が高く評価され、JNS-SfN Exchange Travel Awardを受賞した。
統合失調症モデルマウスを作製し、統合失調症モデルとしての妥当性の検討を行う予定である。また、光遺伝学的手法を適用することで、統合失調症における苔状細胞の神経伝達異常および認知機能障害への寄与を明らかにする。
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Anat. Sci. Int.
巻: 94 ページ: 199-208
10.1007/s12565-018-00473-z
Neurosci. Res.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.neures.2018.09.014