本研究は自然災害と居住環境をテーマに、南太平洋島嶼国において気候変動により規模が拡大しつつあるサイクロン災害に対し、地域固有の建築文化を活用した持続可能な居住環境構築の可能性を、フィールド調査をもとに考察することを目的とする。対象国は2015年及び2016年に大規模サイクロンの被害を受けたバヌアツ共和国及びフィジー共和国であり、サイクロン災害後の早期復興に向けた在来建築の利用可能性に着目し、①文化的要素(伝統建築継承)と②機能的要素(耐災害性確保)の2点を評価軸にフィールド調査を実施した。 2018年度までのフィールド調査では、フィジーでは政府主導による近代住居の再建事業が進んでおり、在来住居「ブレ」の再建が後回しになっていたことが明らかになった。2019年度は、引き続きフィジーの農村集落にて住居再建過程と再建された住居の活用を明らかにすることを目的にフィールド調査を行った。外観悉皆調査と聞き取り調査より、2019年4月には政府主導の近代住居の再建が完了し、同年4月から9月にかけて12戸の在来住居が共同労働により再建されたことが明らかになった。 伝統住居保全の観点では、2016年の被災から再建まで3年かかったものの、1度に12戸の在来住居が再建されたことから、伝統住居保全のポテンシャルの高さが伺えた。被災直後すぐに再建が叶わなかった理由としては、建材である木材を伐採する森林もサイクロン被害を受け、森林の復興に時間がかかることが挙げられたことから、在来住居を復興住宅として再建するには迅速性に欠けることが考察される。一方で、近代住居は建材さえ手に入れば比較的迅速に再建できるが、トタン屋根であることから、日差しの強いフィジーにおいて日中は室内が高温になることが指摘されており、在来住居と比べると住環境に課題がある。
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