研究課題/領域番号 |
18J14607
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
勝又 雄基 東京工業大学, 情報理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 精神疾患 / ショウジョウバエ / プレパルス抑制 / 驚愕反応実験 / 神経回路モデル |
研究実績の概要 |
精神疾患は症状が一様ではなく、特定の原因が明らかでない場合が多い。そのため、ヒトと同様な精神疾患様症状を検出可能な優れた動物モデルを用いた実験系の確立は、精神疾患の原因および治療方法を模索する上で極めて重要な課題である。以前から行われている動物モデルを用いた精神疾患の研究手法としては、マウス等を用いたプレパルス抑制(PPI)の実験がある。PPI とは、驚愕刺激(pulse)の直前に微弱な刺激(prepulse)が先行することにより驚愕反応が抑制される行動現象であり、統合失調症や自閉症スペクトラムをはじめとした精神疾患患者ではPPIの減弱が認められている。本研究では、ショウジョウバエ幼虫を用いた実験系によってPPIの減弱の原因解明に取り組んできた。大きく分けて以下の2つの方策から研究を実施した。 最初に、野生型(通常)の幼虫と精神疾患との関連が認められている変異体(fmrや12957など)の幼虫を対象に、幼虫に与える驚愕刺激の強度を変化させた場合の驚愕反応実験を行った。プレパルスに対しては、先行研究と同様に変異体においてPPIの減弱が観察された。一方で、驚愕刺激強度の変化に対しては、野生型と変異体の幼虫で反応が変化しなかった。この結果は、変異体におけるPPIの減弱が、刺激の受容過程において生じているのではなく、より高次の神経領域における回路異常が原因であることを示唆している。 次に、Jovanic et al.(2016)によって提案された、幼虫の驚愕反応に関係する神経回路の活動を記述した数理モデルを用いて、PPIの減弱がどのような回路異常によって生じるのか検証を試みた。当該年度ではその準備として、上記で実施した驚愕反応実験における幼虫の行動傾向を再現できるパラメータ領域をメタ解析によって探索した。次年度ではこのパラメータ設定を用いて、PPIの減弱の原因をモデルから予測する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
事前に計画していた実験系に技術上の問題が生じたため、同系統の実験系を利用して研究を進めている。また、先行研究であるJovanic et al.(2016)において、論文の記述誤りがあったためにスムーズな理論モデルの実装ができないという問題も生じた。これらにより、現在までの進捗状況は当初計画よりもやや遅れていると判断する。 一方で、新しい実験系における驚愕反応実験の結果は既に揃っており、理論モデルも正確に実装することができた。現在は、実装した理論モデルによってPPIの減弱がどのような神経路異常から生じるのかを分析する作業に移っているが、実際の驚愕反応実験における幼虫の行動傾向を再現することに成功している。今後さらに分析することで、ショウジョウバエ幼虫のPPIの減弱を引き起こす神経メカニズムをより詳細に明らかにすることが期待できる。上記のように、研究の初期段階において予期せぬトラブルに見舞われた点もあったが、現在では研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、幼虫の驚愕反応に関係する神経回路の活動を記述した数理モデルを用いて、PPIの減弱がどのような回路異常によって生じるのか予測する。具体的には、幼虫の神経回路に関係するモデルパラメータ(ニューロン間の接続強度, 発火閾値など)を変化させてシミュレーションを実行し、各ニューロンのダイナミクスや驚愕反応の変化を分析する。 次に、数理モデルによるPPIの減弱の原因に関する予測の正当性を、精神疾患との関連が認められている変異体(fmrや12957など)の幼虫を用いて検証する。これらの変異体ではPPIの減弱が観察されているが、具体的にどの神経領域において回路異常が生じているのかは明らかにされていない。そこで、数理モデルによって予測された神経回路の異常箇所を変異体の幼虫を用いて実験的に観察し、野生型(通常)の幼虫と比較することで、PPIの減弱の原因をより詳細に明らかにしていく。
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