アルツハイマー病は不可逆的な記憶障害を特徴とし、病理症状としてAβ42を主体とした老人斑の蓄積が挙げられる。この為、Aβ42の産生を決定するγセクレターゼは標的分子として古くから研究されてきた。今までの検討により、私はγセクレターゼの活性中心サブユニットであるプレセニリン1(PS1)の第1膜貫通領域(TMD1)の垂直運動と、第3膜貫通領域(TMD3)の面する親水性ポアがAβ42の産生の変動によって変化することを見出している。本研究ではAβ42産生とポアの変動に関与するTMD1/3の構造変化を同定し、γセクレターゼの構造活性相関への理解を深めた。 本研究では、それぞれの構造変化に影響を与える薬剤として、酵素活性の増強を通じて毒性種Aβ42の産生比率を特異的に減らすことが出来るE2012を用いた。E2012は過去の検討からPS1 TMD1とTMD3に近いY106とY181に強く結合することが示唆されており、本研究でそれぞれのアラニン変異体Y106AとY181Aをがそれぞれ近傍のTMD1とTMD3の構造変化を阻害し、E2012によるAβ42減少効果も無くなることを確認した。この時Y106Aは同時にTMD3周囲の活性中心ポアの拡大を阻害するのだが、一方でY181AはTMD1の垂直運動に影響を与えなかった。よって、TMD1の構造変化が起きていてもTMD3の構造変化が阻害されていればAβ42産生の変動が起きなくなることが示唆された。更に、当研究室で同定したAβ42産生を減らす変異であるV236Sを導入したところ、TMD3周囲の活性中心ポアの拡大は起きるがTMD1の垂直運動は見られなかった。即ち、TMD1の構造変化が無くとも、TMD3周囲の活性中心ポアのみでAβ42の産生の制御が可能であると示唆された。これらを総合すると、TMD1の垂直運動がTMD3周囲の活性中心ポアの拡大に先立つことが考えられた。
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