研究課題/領域番号 |
18J14680
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐々木 崇史 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 血管壁モデリング / ゼロ応力状態 / 初期推定 / シェル要素 |
研究実績の概要 |
本研究課題の最終目的は、流体構造連成解析、特に構造解析に足る血管壁モデルの確立としている。その中で本年度は医用画像により得られた血管形状から血管ゼロ応力状態推定法の確立を目的と掲げており、2本の主著論文と1本の共著論文によりその成果を報告している。研究実施計画において記述したとおり、血管を切断したときの開き角という生体情報を利用し、そこにT-splineという曲面理論を組み合わせることで、高精度なモデリングが可能となった。T-splineは高い連続性をモデル全体で保証できる一方で、その離散化の複雑性により、これまでの要素(制御点の集まり)をベースとした手法では十分な収束解を得ることができなかった。そのため、物理形状上の積分点をベースとした推定法を開発し、報告した。加えて、医用画像に対応しやすいシェル要素の中立面に関する新たな定式化も計画通り成果を出すことができた。一方で、初期推定の重要性が新たに問題として挙げられた。これに対し、血圧に対して垂直方向の力の釣り合いを考慮したゼロ応力状態の初期推定法を開発し、患者固有の血管形状を用いてそのパフォーマンス評価も行った。これにより初期推定の段階で収束解に近い解が得られるようになり、これは組み込む生体情報を最後まで影響させることができるようになったことを意味する。したがってより解剖学的かつ力学的な血管モデリング手法が確立されたことになる。また、新たな知見として、血管開き角ではなく、ストレッチの厚み分布を考えることが理論的に妥当であり、その重要性が明らかとなった。この成果は当初の研究計画以上の成果であり、翌年度ではこの知見をもとに新たに定式化をすることで、より高度なモデリングが可能となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
主著論文の一本目と共著論文は当初の計画通りの成果であるが、主著論文の二本目は新たに明らかとなった問題点から導き出した解決策であり、それを論文として報告できたことは当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は大きく、モデリングとそれによるゼロ応力状態の特性を探る2つのフェーズに分ける。本年度のモデリングは層構造と異方性に着目する。血管壁は内膜・中膜・外膜という三層構造になっており、それぞれで材料特性が異なる。特に中膜は弾性板を有しており、圧力容器として特に重要な役割を担っている。まずはそれぞれに妥当な厚みを決定することから始める。血管切断による開き角はそれぞれの層において行われており、前年度同様そこからゼロ応力状態の推定を行うことができる見込みである。 一方、血管の異方性は周方向・長軸方向とは違う方向に形成されており、螺旋構造のような様相を示すことが知られている。また、厚み方向にも傾きを持っており、このモデリングが厚み方向のひずみ分布に影響することが伺える。ここでは2つの方向のなす角を与えた超弾性体材料を利用する。これまでの研究では、キルヒホッフ・ラヴシェル理論を基にした厚み方向のモデリングを、一般座標系で記述してきた。本異方性モデリングにおいてもこれを活用できると考えている。 これらにより完成したモデルに基づいた構造解析を行う。このとき、前年度の初期推定同様、力の釣り合いという観点から考察を進める。初期推定と収束結果の一致度は、分岐部においてはあまり高い値を示さなかった。それは負の曲率を持つ場合にローカルに圧縮が生じるためである。これを解決するために、あらたにグローバルな釣り合いを考慮した初期推定法を考案し、組み込むこととする。これにより開き角というパラメータではない、力学的かつ解剖学的に妥当な残留ストレッチの記述を可能とさせる。
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