本研究の目的は血管壁応力を評価できるモデリング手法を確立することであり、DC2に当たる初年度では特に大動脈ゼロ応力状態のモデリングに着目し進めてきた。ゼロ応力状態のモデリングは、これまでにNURBSを利用した要素ベースのゼロ応力状態(EBZSS: element-based zero-stress state)推定手法を開発してきた。このNURBSを含む曲線・曲面理論を基底関数とする有限要素法をアイソジオメトリック解析と呼ぶ。本研究課題遂行中に開発した2つの研究について以下に概略を示す。また、本年度はこれら2つの研究に関する報告を中心に遂行してきた。 EBZSSのNURBS拡張によって、血管のような滑らかな形状においてもZSSを計算することができるようになった。しかしEBZSSでは、分岐を含むような実際の血管形状において良い収束解を得ることが困難であるという側面をもっている。その原因として、EBZSSは要素ごとの制御点をコントロールすることで目的の形状へ近づけていく反復計算手法が挙げられる。分岐においても連続性を保つためには、NURBSではなくT-splineを利用した離散化が必要であるが、NURBSのように一様な制御点配列を保証することができず、EBZSSのような反復計算手法では十分な収束が見込めない。そのため、制御点ではなく物理形状上の積分点を直接コントロールする手法を開発した。 上記手法においては、逆解析による収束解が複数の解をもつ可能性がある。そのため、初期推定の重要性が高いことが伺え、かつ初期推定において解剖学的知見を組み込んだとしても、その推定が収束解と遠い場合では、その解剖学的知見が収束時に反映されている保証がない。本項では血管切断実験より反映した解剖学的知見に加え、血圧との力のつり合いを考慮した、力学的なゼロ応力状態初期推定法を考案し、実装することができた。
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