研究課題/領域番号 |
18J14754
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福田 和也 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | バソトシン / イソトシン / 配偶システム / 一夫一妻 / 一夫多妻 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、異なる配偶システムを示すハゼ科ベニハゼ属近縁2種(カスリモヨウベニハゼTrimma marinae、以後一夫一妻種と表記; アオギハゼTrimma caudomaculatum、以後一夫多妻種と表記)について、その配偶システムの差異と関連する脳内の形態学的差異を探索した。先行研究により、一夫一妻種の配偶システム形成には神経ペプチドの一種であるバソトシン(VT)およびイソトシン(IT)が関与することが明らかになっているため、まず、免疫組織化学染色により各種のVT、IT産生ニューロンの形態学的特徴を比較した。両種ともにVT、IT産生ニューロンの細胞体は終脳視索前野に見られたが、一夫一妻種のVT産生ニューロンは一夫多妻種と比較して視索前野の尾背側に分布する割合が高いことが明らかになった。これは、他魚種において求愛・攻撃活性の高い個体に見られる特徴として知られているため、繁殖時に一夫一妻種のみに見られる攻撃性の高さ(同性他個体に対するパートナー防衛行動)を解剖学的に説明しうる結果である。今後の展開として、現在(1)VT、ITが関与する神経回路網を探索するため、脳内に分布する各受容体(V1a1R, V1a2R, ITR)の局在の調査、(2)視索前野において細胞体分布の異なるVT産生ニューロンの神経連絡、(3)形態学的差異が見られたVT産生細胞が、繁殖行動時にどのように活動するかを調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、VT、ITの免疫組織化学実験から配偶システムの差異に関連する形態学的差異を発見したことは、本研究の目的を達成する大きな足がかりになる。この発見に基づいて、現在進行中ではあるが以下の新たな実験系を構築することができている。まず、各種受容体の局在を調査するにあたり研究対象種特異的な抗体を用いて免疫組織化学染色を試みたが、良好な結果は得られなかった。そこで手法をin situ hybridizationに変更することで、状況改善の兆候が得られている。また、この変更によって、繁殖行動に関連すると思われる他の分子(ドーパミン受容体等)についても調査の幅を広げることができているため、進捗は良好と考えている。次に、種間に差異が見られた視索前野のVT産生ニューロンの神経連絡を詳細に調査するため、単一細胞に色素を注入するsingle cell electroporation法を取り入れた実験系を確立した。現在進行中ではあるものの、これまでにない精度で異なる領域に分布するVT、IT産生ニューロンの神経連絡を別個に調査することができている。さらに、繁殖行動の差異に寄与すると考えられるVT産生ニューロンの形態学差異を特定することができたため、繁殖行動時にそれらのニューロンの活動に種間で差異が生じているのかを、行動実験によって実証することを試みている。条件検討を重ねることで、目的に適する行動実験系を確立するめどが立っており今期の繁殖期において結果を得ることが期待できる。昨年度はこれらの新たな実験系を確立することに成功しているため、本年度の研究により本研究目的の達成に大きく近づくことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は新たな実験系を複数構築することに成功しているため、本年度はそれら各実験系を完成させ詳細な結果を得ることを目指す。それにより、VT、ITに関連した種間の差異を詳細に比較し、加えて繁殖行動や配偶システムの形成に関連すると考えられる他の分子についても幅を広げて比較調査を行う。具体的には、まず(1)VT受容体(V1a1、V1a2)およびIT受容体(ITR)の脳内での局在を明らかにする。in situ hybridizationを行う実験環境を整備できたため、同様の手法によって他の繁殖行動・社会行動に関与する分子(ドーパミンD2a受容体など)についても利用可能になった。これらを用いて、配偶システムの差異を生みだす神経回路網の差異に迫る。次に(2)VT産生ニューロンの神経連絡をsingle cell electroporation法によって詳細に記述する。視索前野内の異なる領域に分布するVT産生ニューロンが異なる社会行動に関与することはいくつかの魚種において知られているが、それがどのような神経連絡の違いに由来するのかは明らかになっていない。本研究ではsingle cell electroporation法によって各領域に分布する細胞体ごとにその神経突起を可視化することに成功しているため、本年度のさらなる実験によって各細胞の神経連絡を詳細に記述することを目指す。また、配偶システムの差異に関連すると予想されるVT産生ニューロンの形態学的差異を明らかにしたため(3)繁殖行動時においてこれらのニューロン活性にどのような差異があるのかを行動実験を交えて解明する。具体的には、各種の繁殖行動を実験室内で再現し、神経活動マーカーとして近年利用されているpS6リボソームタンパク質に注目してその神経活動の差異を比較する。これらの手法の有効性については既に検証しているため、本年度の結果が期待できる。
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