コレステロールは我々の生体内において必須の脂質であるが、過剰のコレステロールは動脈硬化等の疾患の憎悪因子であるため、細胞内への取り込み、生合成、細胞外への排出は厳密に制御されている。特に、コレステロールの生合成には多量のエネルギーが必要であり、様々な制御ポイントが生合成の速さを緻密に調節している。そのような制御の一例として、コレステロール合成における律速酵素であるSQLE(squalene epoxidase)が最終産物であるコレステロールによって分解される、というネガティブフィードバック制御が知られていた(Gill et al. Cell Metab. 2011)。 一方、本研究ではSQLEの基質であるスクアレンがSQLEを安定化するという、フィードフォーワード制御の存在を見出した。 本年度はスクアレンによる安定化の具体的な作用機構の解析に取り組み、スクアレンがSQLEのN末端制御領域に直接結合し、タンパク質の分解を担うE3ユビキチンリガーゼとの相互作用を減少させ、分解速度を遅くするということを明らかにした (Yoshioka et al. PNAS 2020)。 コレステロール合成におけるSQLEの役割や、様々な疾患におけるSQLEの関連は、SQLEの機能抑制が新たな治療戦略になりうることを示唆している。本研究で見出したリガンドによるSQLEの安定性制御の知見は酵素活性の阻害とは全く異なる新しい機序の治療薬の創出に結びつくことが期待される。
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