研究課題/領域番号 |
18J14873
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 裕哉 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | リポソーム / 連続製造 / マイクロ流路 / 超臨界二酸化炭素 / キトサン |
研究実績の概要 |
リポソームは,内部に独立した水相を保有し,生体適合性が優れていることから,薬物キャリアとして広く注目されている.一方,回分式の非効率製造や製品中の有機溶媒残留が問題となっている.本研究では,新規のリポソーム連続製造プロセスを提案し,効率的で高機能性を有するリポソーム製造を目指している.具体的には,超臨界二酸化炭素を主溶媒とした製造機構により,有機溶媒使用量・残留量の削減を図るとともに,マイクロ流路を利用して流通式製造を可能とすることで,大量製造および品質の均一化を実現する. これまでに,マイクロ流路を利用した製造装置を用いたリポソームの作製およびその性質制御に取り組んできた.本手法で作製されたサンプルを,透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影したところ,直径200 nm以下の球体状の構造体が確認できた.この構造体を含む分散溶液を透析後に高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ,構造体内部に一定量の薬物が内包されていることが明らかとなった.これらの結果から,本法によりリポソームが製造可能であることが示された.また,原料物質の流量を変化させることで作製されたリポソームの性質を制御しようと試みた.リン脂質溶液の流量と薬物水溶液の流量を変化させることで,リポソームの直径を100から300 nmの範囲で制御することに成功した.さらに,生分解性高分子キトサンによるリポソームの機能化にも取り組んだ.作製されたリポソームとキトサン溶液を混合したのちに,リポソームの表面電位を動的光散乱法により測定したところ,キトサンの添加量に応じて制御可能であることが明らかとなった. 本年度は,リポソーム/キトサン複合体の性質評価・制御に取り組む.キトサン/リポソーム複合体とリポソーム単体の安定性を比較し,必要に応じてキトサンとリポソーム表面をトリポリリン酸により架橋することで構造の強化を図る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,マイクロ流路と超臨界二酸化炭素を利用したフロープロセスを用いて,リポソームの作製およびその性質制御に取り組んできた.本手法では,まずリン脂質の酢酸エチル溶液と超臨界二酸化炭素で均一相を形成させ,この混合物と薬物水溶液を混合することで,水/超臨界二酸化炭素エマルションを作製した.その後,エマルション相と水相によりマイクロ流路内でスラグ流を形成させることで,リポソームを作製した.超臨界相とリポソームを含む液相は,気液分離後にそれぞれ連続的に系から取り出すことで連続的なリポソーム製造を実現した. 本手法で作製された構造体の外見を,透過型電子顕微鏡により撮影したところ,直径200 nm以下の球体状の構造体が確認できた.さらに,動的光散乱法による測定からも構造体の直径は200 nm程度であることが確認された.この構造体を含む分散溶液を透析後に高速液体クロマトグラフィーにて分析し,薬物の濃度を測定したところ,構造体内部に一定量の薬物が内包されていることが明らかとなった.これらの結果から,本法によりリポソームが製造可能であることが示された.また,原料物質を含む溶液の流量を変化させることで作製されたリポソームの性質を制御しようと試みた.リン脂質を酢酸エチルに溶解させた溶液の量とチモロールマレイン酸塩水溶液の流量を変化させることで,リポソームの直径を100から300 nmの範囲で制御することに成功した. さらに,生分解性高分子キトサンによるリポソームの機能化にも取り組んだ.作製されたリポソームとキトサン溶液高圧条件下で混合した後に,リポソームの表面電位を動的光散乱法により測定したところ,キトサンの添加量によってその表面電位が-30から80 mVの範囲で制御可能であることが示された.これらの結果から,当初の計画通り機能性リポソームの大量製造が可能なプロセスの提案ができたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,リポソームの機能化およびリポソーム/キトサン複合体の性質評価・制御に取り組む.これまでに,リポソームの製造およびその性質制御が可能であることを示したが,リポソーム単体では利用価値が低いため,生分解性高分子のキトサンを用いた機能性リポソームの作製を行う.これまでに,キトサンの添加によりリポソームの表面電位が制御可能であることを明らかにしたが,その構造安定性は未確認である.そこで,キトサン/リポソーム複合体の安定性を評価し,必要に応じてキトサンとリポソーム表面をトリポリリン酸により架橋することで構造の強化を図る.リポソーム表面電位は,動的光散乱法によるゼータ電位測定により評価し,安定性は動的光散乱法によるリポソーム径の経時変化測定により評価する.また,透過型電子顕微鏡を用いた構造観察も行い,形成されたリポソーム形状も評価する. 一方で,薬物送達機構の確立を念頭に置いた,薬物放出速度制御にも取り組む.薬物放出速度は,リポソーム径,リポソーム構成物質および薬物種により影響されると考えられるが,特にリポソームを構成するリン脂質種による放出速度制御を目指す.また,未知の薬物種に対しても放出速度制御を可能とするために,分子情報を利用した理論計算を利用した放出速度推算にも取り組む.具体的には,理論計算により得られた分子間相互作用を利用し,リポソーム構成物質および対象薬物間の分子間相互作用を計算する.得られた結果と,分子サイズ,リポソーム径をもとに薬物放出速度を推算するモデルを構築し,未知の薬物種に対しても薬物送達機構のデザインを可能とする.薬物放出速度の測定は,リン酸緩衝液中での透析の後,高速液体クロマトグラフィーを用いて行い,理論計算は分子構造のみを入力値として分子情報を得ることができるConductor-like screening modelによる量子化学計算を利用する.
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