研究課題
本年度では、アブラナ科植物のゲノムデータベースよりシロイヌナズナのJAX1配列をもとに配列検索を行い、広範なアブラナ科植物よりJAX1オルソログ遺伝子配列を見出し、バイナリーベクターにクローニングを行った。この際、植物種によってJAX1オルソログ遺伝子を複数コードする場合があり、当初の想定より対象となる遺伝子数が大幅に多く、遺伝子単離に用いる特異的プライマーの設計やRACE法による当該遺伝子の発現解析に時間を要している。クローニングが完了したオルソログについては、数は少ないもののN.benthamianaにおいて蛍光ウイルスと共にアグロインフィルトレーション法により一過的発現させ抵抗性の有無を検証した。さらに、次年度において各JAX1オルソログ遺伝子が単離源の植物においてポテックスウイルス抵抗性に起因するか解析するため、ウイルスベクターを介したRNAサイレンシング系の確立の一環として、ナス科作物のトマトを用いて本系の有効性を検証した。具体的には、トマトにおいてtobacco rattle virus(TRV)を用いてJAX1とは異なる遺伝子の発現抑制を行った。この遺伝子は、本研究室で新たに単離・同定されたポテックスウイルス抵抗性遺伝子Essential for poteXvirus Accumulation 1(EXA1)のトマトにおけるオルソログ遺伝子SlEXA1である。ウイルスベクターを用いてSlEXA1を発現抑制させたトマトに、世界中の農業現場で問題視されているポテックスウイルスのpepino mosaic virus(PepMV)を接種した結果、SlEXA1発現抑制によりPepMVの蓄積が阻害されることが明らかとなった。この成果は平成31年4月に国際誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
アブラナ科植物におけるポテックスウイルス抵抗性遺伝子JAX1を介したウイルス抵抗性獲得機構を実験的に解明するため、当初の研究計画の通り、広範なアブラナ科植物からJAX1オルソログ遺伝子を単離、クローニングし、当該遺伝子について、一過的発現系を用いたポテックスウイルス抵抗性の解析を進めている。また、JAX1とは異なるウイルス抵抗性因子に関して視野を広げて解析を行った。すなわち、広範な植物において保存される新規ポテックスウイルス抵抗性遺伝子EXA1を介した抵抗性の保存性を、主要作物のトマトを用いて検証し、トマトにおいてEXA1ホモログ遺伝子を発現抑制することにより、ポテックスウイルス抵抗性の付与が可能であることを明らかにした。この成果は、国際学術誌Scientific Reportsに掲載された。これらのことから、おおむね順調に進展していると評価する。
アブラナ科植物からのJAX1オルソログ遺伝子の単離、および当該オルソログに関するポテックスウイルス抵抗性能の検証を、引き続き行ってゆく。その後、JAX1オルソログ遺伝子の単離源の植物において、ポテックスウイルスに対する抵抗性とJAX1オルソログの関係について解析するため、ウイルスベクターを介したRNAサイレンシング系またはCRISPRを介した形質転換系の確立を目指す。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Scientific Reports
巻: 9 ページ: 5958
https://doi.org/10.1038/s41598-019-42400-w