研究課題
本研究では、小児腫瘍の一種で非常に悪性度の高いラブドイド腫瘍におけるエピゲノムの関与を明らかにすることを目的としている。ラブドイド腫瘍ではがん抑制遺伝子の1種として知られるIni1の欠損が唯一共通してみられることから、これまでIni1を欠損することでラブドイド腫瘍が発生・進展すると考えられてきた。しかし、以前に我々が作製した薬剤依存的にIni1の欠損を誘導可能なマウスで生後4週齢からIni1欠損を誘導したところ、顔面に浸潤を認める悪性度の高い腫瘍を形成した。しかし、その病理像はラブドイド腫瘍とは異なっており、ラブドイド腫瘍の発生にはIni1欠損のみでは不十分であることが明らかとなった。ラブドイド腫瘍にはIni1以外に共通した遺伝子変異が見られないことから、エピゲノムの関与が考えられた。また、1.Ini欠損マウスは発生初期で胎生致死となること。2.腫瘍発生時期が胎児期、幼児期に集中していること。3.成体でのIni1欠損はラブドイド腫瘍の発生に不十分であること。の3点から胎生致死となる発生初期から胎児期の間にIni1を欠損することがラブドイド腫瘍の発生に重要であると考えられた。また研究員らのグループの研究から、実際にラブドイド腫瘍のメチル化パターンが多能性幹細胞に類似しており、多能性幹細胞においてIni1を欠損させるとラブドイド腫瘍様腫瘍が形成されることが分かった。(Yukinori Terada et al., 2019)この結果から、多能性幹細胞のエピゲノム状態でIni1を欠損することがラブドイド腫瘍の形成に必要であることが明らかとなった。現在、多能性幹細胞においてIni1がどのような機能を持つかについて解析を行っており、今後さらに研究を進めることでラブドイド腫瘍発生のメカニズムを明らかにし、新規治療法の探索に繋げていきたいと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
指導教員と頻繁に議論を交わすことで、研究の方向性を明確化出来ていることが最大の要因であると考えている。また、様々な分野の専門家と協力して研究を進めることにより、研究をより迅速に、より意義深いものへと進捗させることが出来ていると考えている。
これまでの研究で、多能性幹細胞においてがん抑制遺伝子Smarcb1を欠損することがラブドイド腫瘍の発生に重要であることを明らかにした。今後は、多能性幹細胞におけるSmarcb1の機能を明らかとすることでラブドイド腫瘍の新規治療法の解明に繋げていきたいと考えている。
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Cell Reports
巻: 26(10) ページ: 2608-2621
10.1016/j.celrep.2019.02.009