昨年度では、有機-無機ハイブリット材料に用いる被覆型接合分子の前駆体である白金アセチリド錯体の光物性を調査し、錯体の配位子置換反応がUV照射によって加速される現象を発見した。このUV照射による加速的な配位子置換反応はこれまでに報告例が少なく、様々に応用可能であることを踏まえて、今年度も引き続き調査を行った。白金と同族元素であるパラジウムは、白金と同様にアセチリド錯体を生成することが知られており、パラジウムアセチリド錯体も光照射による加速的な配位子置換反応が進行すると考えた。そこで、パラジウムモノアセチリド錯体のDFT及びTD-DFT計算を行った。計算の結果、構造緩和後の励起安定構造(upper SOMO)では、パラジウムを中心とした擬五配位構造を有していることが判明した。加えて、そのフロンティア軌道はパラジウム上に局在化しており、白金錯体の場合と同様にUV照射によって配位子置換反応が加速的に進行する可能性が示唆された。続いて実際に、パラジウムモノアセチリド錯体のUV照射下での塩酸との配位子置換反応を調査した。UV照射のみや、塩酸添加のみの単一の刺激に対しては反応の進行度は4%程度に留まったものの、両方の刺激に対しては反応の進行度が61%であった。このことからUV照射によって実際にパラジウムアセチリド錯体の反応性が向上していることが示された。最後にこのコンセプトがパラジウムアリール錯体が関わる触媒反応にも応用できるのではないかと考え、UV照射によるStilleカップリング反応の加速を試みた。トラン骨格を有する基質を用いて、UV照射下でStilleカップリング反応を行ったところ、30分という短時間かつ50度であっても79%の収率で目的化合物が得られた。この検討で、UV照射による加速的な配位子置換反応のコンセプトが触媒反応にも応用可能であることが示された。
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