研究課題/領域番号 |
18J15017
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村田 祐樹 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | スポーツ事故 / 知識 / 態度 / 実践 / 学生調査 / 教育 |
研究実績の概要 |
本年度は、保健体育科教職課程を履修する学生におけるスポーツ事故についての知識、態度、実践の実態把握、および、スポーツ事故の教材開発を行うことを目標とした。 実態把握については、東海圏に属する5大学の教職課程を履修する学生約1000名を対象に質問紙調査を行った。スポーツ活動中に発生する熱中症に関する知識、態度、実践について質問した。また、それら従属変数と関連性があると考えられる独立変数(スポーツ経験、学習経験、学生生活等)についても質問した。その結果、熱中症に関する知識を問うた18設問すべてに正しく回答した対象者は1%未満であった。さらに、運動部に所属する学生の約3割が熱中症の症状がある場合であってもスポーツ活動を続けたいと回答した(態度)。熱中症の予防行動(実践)については、約4割の対象者は気温が35℃を超えた場合であってもスポーツ活動を継続していると回答した。 スポーツ事故の教材開発については国内外の研究者と意見交換を行った。コネチカット大学のCasa教授を訪問したことにより貴重な知見が得られた。Casa教授はスポーツ活動時の熱中症予防とその救急処置の権威であり、多くの疫学研究や生理学研究の論文を発表している。また、スポーツコーチや保護者に対する教育活動にも力を入れている。オンライン教材によるシナリオ解決学習を教育方法に用いており、学習教材の提示方法として有効であると感じた。 また、コネチカット大学で得られた他の知見として公衆衛生学の理論モデルが上げられる。socio-ecological frameworkでは個体内因子、個体間因子、所属組織因子、環境因子(社会規範)、法律・制度因子という5因子を用いて健康行動を分析する。この理論モデルを背景として仮説を形成し、教育介入の効果を検証できれば本研究の独自性となると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度における当初の目標は、教職課程を履修する学生におけるスポーツ事故についての知識・態度・実践についての実態把握、スポーツ事故の教材開発であった。この目標に対して期待ほどではないがある程度の進展はあったものと考える。 まず、スポーツ事故についての知識・態度・実践についての実態把握については、5大学、約1000名の学生を対象に質問紙調査を実施した。さらに、得られたデータを集計し、各大学の関係者にフィードバックを行た。今後はより詳細な分析を行い、学術雑誌および学術集会で調査結果を公表していくことが目標である。 教材開発については、実際の介入研究で用いる教材を完成出来ていないのが現状である。しかし、教材の完成に向けて確実に進んでいると確信している。スポーツで発生する脳振盪の教育について膨大な情報を整理したレビュー論文が学術雑誌より受諾されたことはそのように考える理由の一つである。 また、コネチカット大学にて研究調査を行い、現地の研究者と意見交換をできたことは申請者にとって有意義であった。米国においてはスポーツ事故に関する研究が盛んに行われおり、当該大学からは近年スポーツ事故を公衆衛生の視点で捉えた研究が遂行されている。公衆衛生学の理論モデルを背景として、今後開発する教材による教育効果を検証できれば本研究の独自性となると考えられた。 以上、本年度の研究の進捗状況は、当初想定したものよりもやや遅れたものとなった。しかし、本年度得られた知見は、本格的な教育介を入実施するに当たり貴重な視座となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は早急にスポーツ事故に関する教材を完成させる。そして開発した教材にて教育介入を行う。対象者を保健体育科教職課程を履修する学生より募集する。対象者を30名ずつ介入群(開発した教材による介入)、プラセボ群(既存の教材による介入)、無介入群にランダムに振り分ける。教育介入によりスポーツ事故の知識、態度、実践の得点がどの程度向上するかを検討する。また、それらの得点の向上を促進・阻害する要因を明らかにする。これらの促進・阻害因子を計量する際に公衆衛生学の理論モデルを用いる。具体的には、socio-ecological framework、行動変容ステージモデルである。これらの理論モデルを用いて対象者の個人要因(スポーツ経験、学習経験、学生生活、スポーツ事故の学習への準備状況等)や環境要因(学年、クラブ活動などの所属組織、所属組織の社会規範等)が教育介入の効果(学習成果)に対してどのように影響するかを分析する。 得られた知見を日本体育学会、日本安全教育学会、日本臨床スポーツ医学会等での発表ならびに論文投稿を行う。なお、平成30年度中に得られた知見をACSM(国際学会)にて発表する。
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