研究課題/領域番号 |
18J15056
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野原 崇稔 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | セルロース / 酵素合成 / 金ナノ粒子 / 二次元ナノマテリアル |
研究実績の概要 |
セルロースは高い結晶性に起因した物理的・化学的な安定性をもち、機能性ナノ材料を創製するための素材として魅力的であるが、化学合成や集合化の制御が困難である。本研究では、酵素反応を人工的に利用することで、末端を官能基化したセルロースオリゴマーを合成し、セルロースを素材とした機能性ナノ材料の創製を目指す。本年度は、末端にアミノ基をもつセルロースオリゴマーが形成する二次元セルロース集合体に着目し、新規な機能性ナノ材料として利用するための表面特性や機能を評価した。アニオン性金イオンの吸着特性を評価した結果、アミノ基をもたないセルロースにはほとんど吸着しなかったが、アミノ基をもつ場合には、表面のアミノ基に対して90%以上と非常に効率よく吸着することがわかり、セルロース鎖末端へのアミノ基の導入により、セルロース集合体表面を機能化できることがわかった。 表面に吸着した金イオンを還元することで、金ナノ粒子の生成場としての利用に展開した。種々の還元剤を用いて系統的に還元した結果、還元能が高いほど粒径が小さく、分布が狭い金ナノ粒子が生成された。これは、還元能が高いほど金イオンが速やかに還元されることで、金ナノ粒子の前駆体が単位時間あたりにより多く生成されるためと推察される。つまり、アミノ基をもつ二次元セルロース集合体が金ナノ粒子の生成場として確かに機能することを見出した。さらに、担持した金ナノ粒子が示す触媒能を4-ニトロフェノールの水素化反応によって評価した結果、過去の報告と比較しても極めて高い活性を示した。これは、二次元表面に担持することで、触媒活性点を被覆することなく金ナノ粒子を分散安定化でき、基質分子が効率よくアクセスできるためと推察される。以上により、アミノ基をもつ二次元セルロース集合体は金ナノ粒子の生成場、ならびに、触媒ナノ粒子の担体として機能することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素反応の起点としてはたらくプライマーを分子設計することで、二次元セルロース集合体表面にアミノ基を導入し、表面に導入したアミノ基を介して金イオンを効率よく吸着できることを見出した。また、その高効率な吸着を利用し、二次元表面に集積した金イオンをその場で還元することで、金ナノ粒子の生成場としても利用できることを見出した。これにより、ナノメートル厚さの二次元セルロース集合体の表面に高密度に提示した官能基を介して、機能性分子やナノ材料を固定化できる潜在性を明らかにできた。さらに、二次元セルロース集合体表面に固定化された金ナノ粒子が高い触媒能を示すことも見出した。以上の結果から、二次元ナノマテリアルを金属ナノ粒子の調製や触媒担体として利用するための新たな手法としての表面を自在に機能化できるセルロース集合体の有用性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
酵素反応の起点として用いるプライマーの種類を拡大し、新規セルロース集合体を構築するための知見を得る。これまでに、アミノ基やオリゴエチレングリコール基といった親水性の低分子であれば、グルコースに導入しても酵素により認識され、セルロースの合成反応が良好に進行することを見出している。適用可能なプライマーの多様性を拡張するため、親水性高分子であるポリエチレングリコールの導入を検討する。モノマー転化率を指標としてCDPによる認識性を定量的に評価することで、高分子末端に導入したグルコースプライマーであっても酵素が認識できるかを評価する。その際、高分子の化学構造や重合度の効果に注視し、CDPの基質特異性に関する知見の拡充を図る。さらに、プライマーに導入する高分子がセルロース部位の結晶形やマクロな組織化構造に与える影響を評価する。生成物の化学構造は、核磁気共鳴法や質量分析法を用いて同定する。セルロース部位の結晶形は、適切な分光法やX線回折法により同定する。マクロな組織化構造は、目視での判断に加え、適切な顕微鏡を用いて観察することで評価する。得られた知見とCDPの基質特異性に関する知見をもとに、セルロース集合体の構造を制御するためのプライマーの分子設計指針の確立を目指す。 さらに、セルロースの結晶形やマクロな組織化構造を時空間的に制御することを目指し、外部刺激に応答して親-疎水性を大きく変化させる機能性分子のプライマーへの導入を検討する。上述した化学構造や結晶構造を評価する際、外部刺激を与えてその効果を注視し、セルロース集合体を自在に構造制御するための新たな指針の確立を目指す。セルロース鎖末端への刺激応答性分子の導入により、集合構造の変化を誘起できない場合、セルロース主鎖のヒドロキシ基に対して刺激応答性分子の導入を検討することで対応する。得られた成果は学会ならびに論文により発表する。
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