2018年度には,日常場面での選択行動の典型である購買行動に焦点を当て,その性質と神経基盤について心理生理学的手法を用いて研究を行った。その結果,反応抑制に伴う事象関連電位であるNogo-N2成分が,刺激画像である商品の購買頻度が高いほど強く生じることを明らかにした。今年度はさらに,当該成分が購買頻度の違いから直接的に影響を受けるのか,あるいは購買行動を導く要因の一つである選好の高さに影響を受けるのかという点を検証し,昨年度の成果と併せてより理論的な検討を行った。 実験手続きの骨子は昨年度に準拠するが,刺激への親近性を統制するために架空の商品画像を用い,刺激への選好の指標としては,好ましさの印象評定を用いた。その中で特に好ましさの高いものと低いものをNogo刺激に割り当てて課題を実施した結果,好ましさの違いによるNogo-N2成分の有意な差は認められなかった。よって,抑制制御を反映する事象関連電位の変動は,刺激の好ましさや報酬性よりも,刺激に対する選択行動の反復性の程度に対して敏感であることが示された。また本研究の結果は,反復的に選択が蓄積されたものに対しては,選好の高さそれ自体よりも,刺激と反応の連合の強さによって反応抑制が困難となることが更なる選択行動を導くというメカニズムを提示する。すなわち,購買行動のように反復的性質のある選択行動の形成と維持においては,好ましさや報酬性よりも反応の制御や抑制に関わる神経基盤が強く寄与する可能性が示唆される。以上の研究成果について,国際誌で発表するために論文を執筆中である。 一方,昨年度のデータに対して機械学習を用いて脳波信号や課題成績から購買頻度を識別する試みは,現在のデータでは十分な精度が得られなかった。今後,実用に足る精度を実現するために,モデルのトレーニングに用いるデータ不足の解消やパラメータの見直しなどを行う必要がある。
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