研究実績の概要 |
海棲適応を果たした有羊膜類の中でもコブラ科のヘビは, 陸棲種と陸に上がる両棲ウミヘビと陸に上がらない完全な海棲ウミヘビの三様な生態が近縁種である唯一の特徴を持ち, 海棲適応の研究のモデルとして近年注目を集めている。採用者らのこれまでの研究で視覚に関わるオプシン遺伝子のアミノ酸配列を三様の生態間で比較し, 両棲ウミヘビのLWS遺伝子と海棲ウミヘビのRH1遺伝子が陸棲種に比べて異なる視覚の適応をしていることを予測した。本研究ではこれらのオプシンからなるウミヘビの視覚が見る光の測定と生息域の光環境の計測を行い, ウミヘビ類の視覚における海棲適応の解明を目的としている。 視覚の機能を調べるためウミヘビの視物質を再構成し, 吸収波長の測定を行った。RH1オプシン視物質の吸収波長計測では, 陸棲種に比べ海棲種のRH1の吸収波長で実際に10nm程の長波長シフトが起きていることを確認した。LWSオプシン視物質の吸収波長計測については海棲種と両棲種一個体分ずつのデータが得られており, それらのデータからもアミノ酸置換から予測された両棲種の短波長シフトが起きていることを確認した。これらの結果は日本進化学会第20回大会とSociety for Molecular Biology and Evolution 2018で発表し, 日本進化学会大会での発表における学生口頭発表最優秀賞の受賞や様々なメディアへの掲載など学術的な評価を受けた。 年度末には所属大学で開催した国際ワークショップにゲストとして生物の視覚の研究を目的に光環境の計測用のソフトウェアの開発や光環境の計測のための水中撮影を行っている研究グループを招待し, 彼らの開発した先進的なソフトの使い方や撮影の仕方を学んだ。来年度に実践する予定の環境光の計測はこれらの手法を用いる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
再構成した視物質の吸収波長の測定は時間のかかる実験系で長期にわたる研究が必要となる。その上でもRH1は十分なデータが得られており, RH1に比べて精製の難しいLWSでも測定に成功している。これらの研究内容は進化学分野の学会で国内学会と国際学会の2回の研究発表を行っており, 残るは環境光の計測をする段階となっているため, 研究は順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, 残りの再構成したLWS視物質の吸収波長の測定を行う。また視覚機能と生態の情報, 生息域の光環境の情報を合わせ議論するため, 来年度は環境光の計測を行う予定である。 生息域の光環境の計測も終わらせ次第, これらの結果を論文にまとめて学術雑誌に投稿する予定である。
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