研究課題/領域番号 |
18J15171
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
細谷 和輝 東海大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 紫外線励起活性酸素 / 表面改質 / ポリスチレン / 細胞培養 / タンパク質吸着 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
再生医療や生物研究で使用されるポリスチレン製細胞培養基板は、低温で処理ができる細胞接着性向上を目的とした表面改質と滅菌処理の2つの表面処理が別々の工程で行われている。従来品は酸素プラズマ照射による表面改質と、ガンマ線照射などによる滅菌が行われているが、高真空プロセスや、大規模な装置が必要なため、処理工程の複雑化は避けることができない。本研究では酸素に紫外線を照射して生成した活性酸素 (紫外線励起活性酸素) を,ポリスチレン製細胞培養基板の表面処理技術として応用した。活性酸素は反応性の高い酸素種である。特に酸素に紫外線を照射するだけで連続的に生成できるため、表面改質に応用することによって簡便な処理が可能となる。特徴として、低温処理ができることや、大気圧環境でも生成可能であることなどがあげられる。また、活性酸素は滅菌処理時に一般的に利用されている不織布製滅菌バッグ内への殺菌効果が報告されており、表面改質効果を実証することによって耐熱性に乏しいポリスチレン製細胞培養基板の表面改質と滅菌の同時処理技術への応用が期待できる。ポリスチレンを活性酸素に曝露する条件と、活性酸素曝露後のポリスチレン表面の改質効果の関係性を評価することにより,表面改質手法の確立を目指す。また、活性酸素曝露によって処理したポリスチレン表面に対するタンパク質吸着や細胞接着の挙動を評価することにより,細胞接着性に影響をおよぼすポリスチレンの表面特性を比較、考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性酸素生成源である紫外線ランプとの距離を段階的に変更することにより,紫外線照度を段階的に変化させ,紫外線の照度によって表面改質効果にどのような影響が表れるか評価をおこなった.結果,紫外線ランプと試料の距離が近いほど表面改質効果が高く,細胞接着性も向上した.紫外線照度は紫外線ランプと測定点の距離が離れるにつれ減少し,140 mmでは波長185 nmの紫外線は到達しなかった.紫外線ランプとの距離が140 mmと70 mmの地点で活性酸素量を比較した結果,距離が近いほど活性酸素生成量が多く,活性酸素生成に関わる紫外線照度の増加と,それに伴う活性酸素生成量の増加によって表面改質効果の向上が向上したことを実験的に証明した.角度分解X線光電子分光によって表面改質が施されたポリスチレン表面の深さ方向解析を行った.酸素プラズマ照射が施されたポリスチレン表面は界面に多量の酸素が分布し深さ方向への酸素導入が少ないことに対し,活性酸素によって表面改質が施されたポリスチレン表面は,深さ方向に均一な表面改質層が形成されていることを確認した. 細胞培養評価はマウス頭外環由来骨芽細胞様細胞のみをもちいて行った.表面の酸素割合が約12%のポリスチレン表面において最も細胞接着性がよく,長時間処理によって表面酸素割合を32%まで増加させた表面では細胞接着性,増殖性ともに低下し,初期接着にはぬれ性よりも表面の元素組成や官能基の存在が支配的に作用することが分かった.また,表面改質前後の表面にウシ血清アルブミンを吸着させた後,Lowry法によって染色して表面改質効果とタンパク質吸着量を比較した結果,細胞接着性が良好な条件はタンパク質吸着が近しく,細胞接着性が低下した表面酸素割合が多い条件においてタンパク質吸着量が少ないことが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は活性酸素曝露と紫外線照射の併用によって、表面の親水性官能基密度の向上を促し、多彩な表面特性を形成できる条件を模索する。また、表面のぬれ性や官能基、元素組成だけではなく、材料の電気的な性質も、細胞接着性に影響をおよぼすと考えられる。活性酸素によって表面改質を施したポリスチレン表面の電位測定を行い、表面に形成された官能基密度の違いや、表面元素組成の変化、表面改質層の深さの違いなどによって変化する、電気的な特性の違いを評価する。前年度までに、1種類の細胞を用いて、増殖率や接着面積測定による細胞の接着性の評価をおこなってきた。一方、細胞種によって接着性が異なることや、接着に適する表面状態が異なることが報告されていることから、今年度は本格的に複数種の細胞を用いて細胞培養実験を行っていく。骨芽細胞様細胞や血管内皮細胞、線維芽細胞など、由来の異なる数種の細胞を用いて細胞接着率の測定や伸展形状を観察する。前年度までは位相差顕微鏡や細胞の乾燥工程を経るSEMによっての観察のみ行っており、培養環境に近い環境で細胞骨格が詳細に観察できなかった。本年度は蛍光試薬によって細胞骨格や細胞核を染色し詳細に形態観察を行っていく。また、細胞が接着・増殖しやすい表面改質条件と、細胞・接着しにくい表面改質条件上の細胞の遺伝子発現を比較し、成長を阻害している因子を考察する。 細胞は材料に吸着したタンパク質を介して材料に接着することから、活性酸素曝露によって表面特性を制御したポリスチレンに対して吸着したタンパク質吸着特性を評価する。前年度までに、ウシ血清アルブミンの吸着量をLowry法によって評価した。今年度は細胞接着性タンパクであるフィブロネクチンや、コラーゲンを用いて同様に評価を行い、細胞接着に関わるタンパク吸着特性を評価する。
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