表面改質と滅菌の一括処理が期待できる紫外線励起活性酸素を用い、ポリスチレン製細胞培養基板の表面改質を行い、その表面改質効果と細胞接着性を評価することによって新規表面改質手法の確立を目指すことを本研究の目的とした。今年度は、(1)紫外線照射後に不織布製滅菌バッグに包装し、活性酸素曝露を行う2段階処理による表面改質効果、(2)深さ方向分析による表面改質メカニズム、(3)表面改質効果と細胞増殖率の関係、(4)表面改質効果および細胞接着率とタンパク質吸着量の関係、について検討した。(1)では、活性酸素のみ曝露した場合と比較して水の接触角が小さい表面の形成を可能にし、より多彩なぬれ性と表面組成の制御ができることを明らかにした。(2)では活性酸素に曝露したポリスチレン表面は、材料表面から内部まで、均一な元素組成であることを明らかにした。活性酸素による表面改質は、一般的にプラスチック材料の表面改質に用いられてきたプラズマ照射のように、積極的にラジカルを形成、親水化するものではなく、反応性の高いガスの反応および内部への拡散によるものであることが示唆された。(3)では、短時間の培養では、酸素プラズマ照射が施された市販のポリスチレン表面と同等の細胞接着性を示したが、長時間培養した結果、増殖率が劣る傾向にあった。紫外線を用いて水の接触角が小さい条件を作成し、細胞培養を行った結果、細胞増殖率に改善が見られ、水の接触角は、細胞の増殖性にかかわる表面特性であることを明らかにした。(4)では、複数種のタンパク質吸着量をLowry法によって比較した結果、表面改質時間の増加とともにタンパク質吸着量が減少する傾向にあり、長時間活性酸素に曝露した表面において、増殖率が低下した要因の一つであることを明らかにした。
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