研究課題
本研究の目的は、我々が確立したヒト正常細胞およびLSRを高発現している癌細胞株や初代培養癌細胞を用いて、ASPP2/LSR/AMOT/Merlin/YAP/PAR3蛋白複合体の正常および癌細胞における役割と発現調整メカニズムを多面的に解析することである。今年度の成果として、主に以下の2つの内容が挙げられる。1. 細胞分裂時におけるLSRの局在変化と役割を、ヒト子宮内膜癌細胞株Sawanoを用いて、同様な3細胞間タイト結合分子であるtricellulinや様々な2細胞間タイト結合分子そして上皮極性分子PAR3およびYAPと比較検討した。結果、LSRおよびtricellulinは、midbodyを取り巻くように濃縮がみられ、さらに細胞分裂時の中心体においてγ-tubulinおよびHook2と明らかな共局在が認められた。siRNAを用いてHook2の発現を低下させた結果、細胞分裂時の一部の中心体からLSRおよびtricellulinは消失した。以上より、LSRはバリア機能だけでなく、細胞質分裂にも重要な役割を果たしていると考えられた。2. 3細胞間タイト結合分子LSRリガンドAngubindin-1による上皮バリア調節機構を、子宮内膜癌細胞株Sawanoを用いて検討した。その結果、Angubindin-1処置により、LSRの発現と上皮バリアの可逆的な低下、3細胞間でのactinのdot状の発現と細胞膜の沈降、上皮極性分子PAR3の局在変化、細胞内アクチン骨格の調節に関与しているcofilinやJNKのリン酸化の一過性の亢進とcofilinの経時的な低下がみられ、またJNK阻害剤やsiRNA-JNK処置により上皮バリア低下の阻害がみられた。以上より、Angubindin-1は、JNK/cofilin/アクチン骨格のダイナミックスを介して上皮バリアを可逆的に調節していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度に実施する実験においては、ほぼ終了し有意義な結果を見出すことができた。
前年度の研究を継続して行いつつ、ASPP2抗体を作製し、ASPP2機能阻害による癌の悪性化のメカニズム解析とその抑制効果について検討する。さらには、糖代謝を含めた細胞のエネルギー代謝とASPP2/LSR/YAP/PAR3の発現調節との関連を検討するため、細胞の主要なエネルギー代謝経路である解糖系やミトコンドリアによる好気呼吸の状態を細胞に対して無侵襲・高感度かつ経時的に測定可能な細胞外フラックスアナライザーを用いて解析を進めていく予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件)
Am. J. Transl. Res.
巻: 11(2) ページ: 599-611
J Histochem Cytochem.
巻: in press ページ: in press
10.1369/0022155419841013.
Epithelial Cells: Structure, Functions and Clinical Aspects. Nova Science Publishers.
Exp Cell Res.
巻: 371(1) ページ: 31-41
10.1016/j.yexcr.2018.07.033.
J Mol Histol.
巻: 49(6) ページ: 577-587
10.1007/s10735-018-9796-x.