研究課題/領域番号 |
18J15250
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
四坂 勇磨 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 緑膿菌 / ヘム獲得システム / 合成金属錯体 / ヘム受容体 / ヘム獲得阻害 / 光殺菌 |
研究実績の概要 |
病原菌の一種である緑膿菌は、ヒトなどの宿主中において生存に必須な鉄源を効率良く獲得するために、ヘム獲得機構を発達させている。鉄源へのアクセスが制限される宿主中において、緑膿菌はヘム獲得蛋白質HasAを分泌し、宿主細胞からヘムを奪い取る。HasAに捕捉されたヘムは、緑膿菌の細胞膜上に発現するHasA特異的な受容体のHasRに認識され、緑膿菌の細胞内に取り込まれる。これまでに、ヘムの代わりに鉄フタロシアニンや、ジフェニルポルフィリンを基本骨格とした、嵩高い官能基を有する合成金属錯体を捕捉させた「偽のHasA」が、HasAの外膜受容体HasRに作用してHasRを介したヘム獲得を阻害し、緑膿菌の増殖を停止できることを報告した。増殖が抑制された原因を明らかにするために、本年度は、合成金属錯体を捕捉した「偽のHasA」とHasR から形成される、「HasA-合成金属錯体-HasR」三者複合体の、結晶化に取り組んだ。また、フルオレセインを化学修飾したHasAを用いて、緑膿菌外膜上のHasRとHasAの相互作用を解析した。ヘムを捕捉した本物のHasAと比較して、合成金属錯体を捕捉した「偽のHasA」の方がHasRと強く結合し、HasAがHasRから解離できなくなることを解明した。また、光増感剤のガリウムフタロシアニンを捕捉させたガリウムフタロシアニンHasAを、既存の抗生物質による治療が困難な多剤耐性緑膿菌に作用させ近赤外光を照射すると、発生する一重項酸素により死滅させることができると分かった。さらに、本手法と既存の抗生物質と併用することで、殺菌率を10倍以上向上できることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
緑膿菌のHasRノックアウト株と蛍光修飾HasAを用いた実験により、合成金属錯体を捕捉した「偽のHasA」が、緑膿菌外膜上のHasRによって誤って認識され、ヘムを捕捉した本物のHasAと同様に、緑膿菌外膜上のHasRに結合することを明らかにした。また、8種類の多剤耐性株のゲノムDNAを抽出し、hasA遺伝子とhasR遺伝子をコードする領域をPCRによって増幅して得たDNA断片を鋳型に、遺伝子配列解析を行った。HasRのモデル構造から、HasAとの相互作用に関わると考えられるアミノ酸残基に変異は導入されておらず、「偽のHasA」を利用する本手法が、多様な臨床株にも有効であることを示す結果を得ており、当初の計画以上に研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
「HasA-合成金属錯体-HasR」複合体の構造を決定するために、結晶化条件のスクリーニングを行い、X線回折実験に使用できる良質な蛋白質結晶の調製を行う。ヘムが結合した緑膿菌由来の「HasA-ヘム-HasR」複合体の結晶構造も明らかになっていないため、こちらの複合体も並行して結晶化と構造解析に取り組む。HasA-HasR複合体に内包されている金属錯体の構造の違いによって、蛋白質の構造に異なる変化が生じていると考えており、蛋白質の構造解析を基盤として、金属錯体の種類と増殖抑制効果の関係を明らかにする。
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