高密度中での核物質の性質を解析するために、カイラル対称性に基づいて記述されるスカーミオン結晶手法を用いて研究を行った。主に、昨年度執筆した論文「パイ中間子位相欠陥(パイ中間子場によるエネルギーの空間的局在化)が及ぼす核物質の性質変化」と「外部磁場による核物質の性質変化」の加筆・修正を行った。これらの論文は本年度の学術論文誌に掲載されることになった。 本研究によって、外的要因による核物質の性質変化についての定性的な理解を得ることができた。しかし、スカーミオン結晶手法で得られる核子間相互作用は実験結果と比べると強く束縛されることが知られており、定量的な見地に立つと、本研究で得られた結果が満足いくものであるとは言い難い。これを踏まえ、核物質中における核子間相互作用の知見を得るため、米国・Cyclotron Institute of Texas A&M Universityに赴き、カイラル摂動論を用いた「核子間相互作用への媒質依存性」の研究に着手した。 核子間相互作用への媒質依存性は、カイラル摂動論の高次の寄与(N2LO:Next to next to leading order)から得られるが、本研究では、より高次の寄与(N3LO: Next to next to next to leading order)からの媒質依存性の数値的評価を行った。具体的には、部分波展開(二体核子系の角運動量の固有状態での展開)された核力ポテンシャルに対し、摂動計算でのより高次の寄与であるN3LOの補正を取り入れ数値的な評価を行なった。N2LOの評価で使用されているパラメータの値を用いた場合、N3LOから得られる核力ポテンシャルへの媒質依存性は、N2LO から得られる数値結果とは逆符号でかつ同等の大きさを持つことが示された。これらの結果は学術論文にまとめ上げ学術論文誌に掲載予定である。
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