研究課題/領域番号 |
18J15391
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
河合 英理子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 代替医療 / アロマセラピー |
研究実績の概要 |
昨年度の研究から得た、Grapefruit精油の匂い刺激は筋交感神経活動に大きな影響を与えないという結果をExperimental Biology 2018にて発表を行った。 我々は、これまでに実施してきた実験結果をもとにアロマセラピーの効果における大きな個人差を生み出す要因に着目した。先行研究から、匂い刺激による血圧および心拍数への影響における個人差は、被験者の高血圧の家族歴が影響を及ぼしている可能性を見出し、当初の研究計画に加えて匂い刺激による生理学的応答における高血圧家族歴の影響を検討した。この実験結果から、高血圧の家族歴は匂い刺激による効果において大きな個人差を生み出す要因の一つである可能性を見出した。この新しい知見はFederation of the Asian and Oceania Physiological Societies 2019にて発表を行った。 これまでに、森ノ宮医療大学との共同研究において短時間の鍼刺激によって惹起される心拍数や血圧の減少効果、並びに降圧効果と徐脈効果がもたらされる鍼刺激の部位差について報告をしてきた。臨床現場を想定した場合に鍼刺激効果の持続性を観察することは極めて重要であるため、鍼刺激後の徐脈持続時間や鍼刺激後の体位変化および運動に対する影響を検討した。実験結果から、10分間の鍼刺激による徐脈効果は刺激後4分間持続すること、また、鍼刺激後の体位変化および運動実施によっても徐脈効果が維持されることが明らかになった。 Grapefruit精油の匂い刺激による循環器系および筋交感神経活動への影響に関する研究結果をAmerican Journal of Physiologyへ投稿するため、現在準備中である。また、今年度に実施したアロマセラピーの効果に対する高血圧家族歴の影響を検討した研究結果についても論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画的に、かつ真摯に研究へ取り組み、当初の計画通りに研究を進展させた。新たに得られた研究成果を国際学会および国内学会で多数発表した。 匂い刺激に関連する研究については、「匂い刺激は自律神経活動を変化させ、血圧および心拍数が変動する」という仮説を検証する研究を継続して実施した。その結果、Grapefruit精油の匂い刺激は筋交感神経活動に大きな影響は与えないという結果を導き、国際学会(Experimental Biology 2018)および国内学会(マイクロニューログラフィ学会)で発表した。また、臨床の現場においても長年問題視されているアロマセラピーの効果の個人差についての検討を行い、匂い刺激による血圧応答にみられる個人差は高血圧の家族歴が一因であるという結果を導いた。その成果は、国際学会(Federation of the Asian and Oceania Physiological Societies 2019)にて発表を行った。 鍼刺激による循環器指標および自律神経系への影響に関連する研究については、臨床に応用した場合を想定し、下腿への鍼刺激による徐脈効果の持続時間、および体位変化や運動時における徐脈効果の持続性ついて検討した。その結果、10分間の鍼刺激後、徐脈効果は4分間持続することを観察し、また、心拍数が上昇する体位変化・高強度運動を行った場合においても徐脈効果が持続することを明らかにした。これらの成果は国内学会(計測自動制御学会ライフエンジニアリング部門シンポジウム2018)にて発表した。 以上の成果に加え、次年度の研究実施に向けて、実験室のセットアップや研究実施において必須の予備実験を多数行い、次年度の研究に向けた準備も順調に推進している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、匂い刺激および鍼刺激が循環器指標に影響を及ぼし、その応答は自律神経系が関与している可能性を報告してきた。一方、慢性疲労症候群患者を対象とした研究では、疲労度指標と交感神経活動との間に相関関係があると報告されており、自律神経系に影響をおよぼす匂い刺激は、ストレスや疲労を減少させる可能性が考えられる。したがって、今後の研究では、匂い刺激が循環器指標および自律神経系、さらには疲労度指標におよぼす影響を検証する。本研究の目的は、代替医療に期待される、未病を起因するストレスや疲労の軽減効果の作用機序解明を目指すことである。 具体的な実験実施内容は、以下の通りである。健常な若年男性15名(18~39歳)を対象とする。10分間の安静(PRE)後に、10分間のストレス負荷(TASK)を実施する。PRE~TASKを1クールとし、匂い刺激あり条件およびコントロール条件(匂い刺激なし)でそれぞれ実施する。匂い刺激にはラベンダー精油またはグレープフルーツ精油を使用し、すべての被験者に対して両条件(匂い刺激あり条件およびコントロール条件)を実施する。実験開始から終了まで、筋交感神経活動、心拍数、血圧、呼吸代謝諸量、筋および皮膚血流を連続的に測定し、PREおよびTASK終了時に主観的疲労度を測定する。TASK中の各指標を、介入刺激あり条件およびコントロール条件で比較し、匂い刺激がストレス負荷時の自律神経系および循環器指標に及ぼす影響を検証する。 現在、実験遂行に必須の予備実験を実施中であり、7月中に実験実施によるデータ収集を完了する予定である。その後データ分析を行い、研究成果を国内および国際学術会議において発表し、国際学術雑誌へ投稿する計画である。
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