研究課題
本研究の目的は、非磁性酸化物の界面に現れたナノスケール磁気構造を探索することにある。今年度は、強磁性ドメイン観測と基板処理方法の開発という二つのテーマで研究を行って、その成果を各々論文として発表した。1. 非磁性酸化物界面における強磁性ドメインのイメージング共の非磁性であるLaAlO3とSrTiO3の界面には界面磁性が現れることが期待されているが、磁気モーメントが非常に小さく、磁性を直接観測することは難しいとされてきた。物性研究所が構築してきた世界最高分解能(2.6nm)をもつレーザー励起光電子顕微鏡システムを用いると、表面からの深さ10nmまでの情報を取り出し、界面の磁気構造を実空間かつ高感度で測定することができると考えた。この共同研究でサンプル作製を担当し、パルスレーザー堆積法(PLD)を用いて単結晶SrTiO3(001)基板上にLaAlO3薄膜を成膜した。Laser-PEEMの磁気円二色性(MCD)を評価すると、強磁性の強度は導電性とON/OFFを共にし、低温と室温で変化がないことがわかった。2.原子レベルで平坦なAlO2終端のLaAlO3(001) 基板表面を実験的に実現薄膜と基板との界面物性は基板表面の構造に大きく影響されるため、原子レベルで平坦かつ単一組成をもつ基板表面を構築することが重要である。しかし、本研究で対象としたLaAlO3(001) 基板は表面が極性をもつため、単一組成を示す表面を作ることは難しいとされていた。本研究では高温アニーリングと水エッチングを組み合わせることで原子レベルで平坦なLaAlO3(001)基板を実証するプロセスを考案し、イオン散乱分光法(CAICISS)を用いてAlO2単一終端を確認した。これらの結果をまとめてジャーナルに投稿し、Editors’ suggestionsとして受理された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は目標としていたLaAlO3/SrTiO3界面を作製し、予定通りLaser-PEEMを用いて観測することができた。断面試料の作製方法においては進捗が遅れているが、真空中で劈開を行う既存の計画を中止し、表面の荒い試料を先ず作製して、導電性原子間力顕微鏡によりマクロな磁化構造を確認することに重点をおいて作業中である。薄膜作製においては膜厚を原子層単位で制御する技術が大いに進展し、異なる陽イオンが交互に積層した構造を取っている単結晶基板や薄膜材料の構造を0.5原子層レベルで制御することを可能とした。特に極性表面を示すLaAlO3(001)表面に関しては、単一終端面を示す表面作製技術を初めて実現し、イオン散乱分光法を用いて確かめることができた。同時に高速ワークステーションを用いて様々なプログラムの使用方法を身につけ、酸化物の電子構造を計算し、先行研究と比較を行った。この計算結果を界面に拡張し、実験結果と比較することで酸化物の機能制御に知見を与えると期待している。
LaAlO3/SrTiO3ヘテロ構造を作製するが、一つの試料内でLaAlO3の膜厚に勾配をつけて系統的な知見を得る。また前年度に引き続き、面直方向の電子密度分布を調べるため、断面試料を作製し、導電性原子間力顕微鏡で観測を行う。HAADF-TEM測定を依頼して界面構造を確かめる。同時に界面の電子構造を計算し、薄膜の厚さを変えることによって電子構造がどう変わってくるかを予測する。膜厚による効果を直接観測し計算結果と比較するために韓国ソウル大の角度分解光電子分光装置を用いて、その場観測を行う。また、電子構造の変化によって界面磁性が現れるメカニズムを計算で確かめて、同様な機構を示すことが期待される新たな界面を設計する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Physical Review Materials
巻: 3 ページ: 023801~023808
10.1103/PhysRevMaterials.3.023801
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 88 ページ: 034717~034721
10.7566/JPSJ.88.034717