研究課題
本研究の目的は、非磁性酸化物の界面に現れたナノスケール電子・磁気構造を面直方向において探索することにある。今年度は、絶縁体酸化物LaTiO3とSrTiO3の界面を作製し、薄膜の膜厚を変化させることで面直方校の電子密度分布がどう影響されるかを調べ、論文として発表した。単結晶SrTiO3 基板に表面若しくは界面からキャリアをドープすると二次元電子ガスを形成し、超電導や磁気構造の発現など、興味深い物性を示すことで盛んに研究されてきた。申請者はこれまでLaをデルタドープしたSrTiO3界面を作製し、その面直方向の物性を探索してきたが、SrTiO3は大きな誘電率を持ち、界面が厚いキャップ層によって表面から分離されなければならないため、電子構造の直接的な観測が難しい。そこで本研究ではキャップ層の膜厚およびLaのドープ層の膜厚を原子レベルで制御し、導電性や磁性を示す最小の膜厚を調べた。まずパルスレーザ堆積法を用いて SrTiO3基板上にLaがデルタドープしたSrTiO3薄膜を作製した。膜厚に依る輸送特性を測定すると、キャップ層が25原子層以下と薄い場合絶縁的な電気伝導度を示し、それから膜厚を増やしても伝導度には影響がないことを確認した。また、ドープ層が厚くなるとキャリア密度が増加することも確認された。ホール測定を行うと、十分に厚いキャップ層の場合、ドープ層の厚みを増加させることで界面近傍のキャリア密度(n1)の変化は殆どなく、深い基板側のキャリア密度(n2)が主に変化することが分かった。さらに、ゲート電圧を印加してその影響も調べた。負の電界を引火すると通常の電界効果による抵抗の変調ができるが、正の電界を印加するとキャリアが基板側にトラップされ、メモリ効果を引き起こすことが分かった。同じ総キャリア密度(n1+n2)をもつ試料であっても電場依存性には大きく差が生じていることも確認された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は今までの測定を見直し、データを論文としてまとめる一方、物性を担当するキャリアを特定することができ、今後の研究において新たな指針を各区率することができた。非磁性絶縁体界面の導電性および磁気構造は今までの報告に不一致が多かったが、その主な原因はキャリア密度の面直方向における広がりにあることがわかった。低温で正の電界を与えた時に現れるメモリ効果が総キャリア密度ではなく、キャリアの分布により影響されることが確認された。基板の結晶構造にある欠陥は通常の薄膜作製プロセスではコントロールが難しく、それが原因となりキャリアの分布が変わる可能性がある。これらの測定を基盤とし他の界面材料にも適応して、より統括した知見を得ることができると期待している。
今後の研究の方針として大きく二つを考えている。1)LaTiO3/SrTiO3界面において界面のスピン軌道相互作用を制御できるか確認する。キャリア密度およびキャリアの分布を変えながらLifshitz点が存在するか否かを確かめる。2)CaTiO3基板上にこれまでと同様な、Laデルタドープ薄膜を作製し、その物性を探索する。電子構造の変化によって界面磁性が現れるメカニズムを計算と合わせて確かめて、同様な機構を示すことが期待される新たな界面を設計する。
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Applied Physics Letters
巻: 116 ページ: 171601~171601
10.1063/5.0006612