研究課題/領域番号 |
18J20049
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
矢野 裕子 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 米澱粉 / 分子鎖構造 / 結晶構造 / 米粉クッキー |
研究実績の概要 |
本研究課題では、澱粉分子鎖構造の異なる米を試料に用いて食品を製造することで、各食品に適した澱粉分子鎖構造を明らかにすることを目的としている。当該年度においては、分子鎖構造が明らかである原料米から作製した米粉クッキーの基本的な物性と成形性を評価することを目的とした。 鎖長分布測定及び分子量分布測定の解析結果より澱粉の分子鎖構造が明らかとなった系統の米を試料に用いた。結晶性米粉と非晶性米粉を作製し、各米粉にオレイン酸と砂糖を添加し焼成することで米粉クッキーを作製した。米粉クッキーの成形性について、結晶性米粉から作製した場合には、澱粉の組成や分岐構造に関係なく生地はよくまとまり、良好な成形性を示した。これに対し、非晶性米粉から作製した場合には、アミロース含量が低い生地ほどまとまりがなく、焼きムラや割れが生じてしまった。このことから、非晶化したアミロペクチンが脂肪酸を吸収したことでまとまりのない乾いた生地になった可能性がある。 アミロペクチンがオレイン酸を吸収していることを明らかにするために、広角X線回折測定を行なった。非晶性米粉をそのまま焼成したものと非晶性米粉にオレイン酸を添加して焼成したものを比較したところ、非晶性米粉をそのまま焼成した場合には回折ピークが現れなかったが、オレイン酸を添加して焼成した場合にはアミロペクチンの再結晶化に由来する回折ピークが観察されたため、脂肪酸はアミロペクチンに吸収されている可能性が極めて高いと考えられる。また、再結晶化ピークの存在から、脂肪酸が澱粉の結晶核剤として働く可能性を見出した。一般に澱粉中のアミロースと油脂との間でアミロース-脂質複合体を形成することは知られているが、アミロペクチンとの相互作用は知られていない。この成果は澱粉のこれまでの常識とは異なる非常に興味深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、おおむね順調に進展している。理由及び具体的な研究の成果は下記の通りである。 研究成果として、分子鎖構造が明らかである原料米から作製した米粉クッキーの基本的な物性と成形性を明らかにした。本研究により結晶構造や澱粉の組成が異なる場合のクッキーの成形性の違いを明確にした。本内容に関しては、近日中に論文投稿を予定している。また米昨年度実施していた粉パンに関する研究成果を海外誌に投稿し、受理された。現在までに得られた成果については、3件の学会に参加し積極的に発表を行うと同時に、情報収集に務めた。 以上のことを総合的に判断し、研究活動においておおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は製菓と製麺に適する澱粉分子鎖構造を明らかにする。推進方策を以下に記す。 『製菓に適する澱粉分子鎖構造の検討』 昨年度に引き続き米粉クッキーに適した澱粉分子鎖構造を明らかにする。 試料には、一般的なうるち米と特殊な分子鎖構造を有する欠損変異体を用いる。試料となる米を粉砕することで結晶性米粉と 非晶性米粉を作製する。米澱粉の熱特性を評価するために、示唆走査熱量測定(DSC測定)を行う。DSC測定では、各品種から作製したクッキー生地を試料 に用い、それぞれの糊化温度と糊化エンタルピーを明らかにする。また、アミロース-脂質複合体の有無を明らかにする。以上の検討により、 澱粉分子鎖構造と脂肪酸との親和性が明らかとなる。 『製麺に適する澱粉分子鎖構造の検討』 試料には、一般的なうるち米と特殊な分子鎖構造を有する欠損変異体を用いる。試料となる米を粉砕することで、結晶性米粉と 非晶性米粉を作製する。各品種の米粉から米粉パスタを作製し、成形性を評価する。 製麺実験により作製した米粉パスタの圧縮試験と広角X線回折測定を行う。圧縮試験では麺の硬さを評価し、広角X線回折測定では澱粉の老化度を明らかにする。以上の検討により、澱粉分子鎖構造と麺の強度の関係が明らかとなる。研究成果については国内外の学会や論文等で公表する。
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