研究課題
本年度は、主に、MBE-スピン分解APRES一体装置の開発・改良と、層状物質AlB2中のディラック線ノードの観測及びCoSi中での新型粒子励起の観測を行った。以下にその概要を述べる。装置の開発・改良として、第一に、MBE薄膜作製装置をスピン分解ARPES装置に接続し、試料表面を汚染することなく搬送できるように改良した。Cd3As2の薄膜作製条件の検討を行い、単結晶薄膜が作製可能であることを見出した。第二に、6-eV連続発振レーザーの立ち上げを行い、金薄膜やラシュバ金属超薄膜などを用いて装置の性能を評価し、高い統計精度でかつ高エネルギーおよび運動量分解能の実験が行えることを確認した。上記と並行して、新奇なトポロジカル半金属の探索を行った。第一原理計算によってBCS高温超伝導体であるMgB2やその類縁物質AlB2がディラック線ノードを持つことを予想した。ディラック線ノードの全分散が決定可能であるAlB2単結晶に対してARPES実験を行い、ディラック線ノード構造の直接観測に成功した。また、近年新たなトポロジカル半金属として、スピン1粒子や二重ワイル粒子といった新型の準粒子を有する物質が理論的に予測され、その実験的立証が望まれている。有力な候補物質であるCoSiは劈開性が極めて悪く、ARPES実験が可能な大面積な清浄試料表面を得るのが難しいために、新型粒子の実験的観測はこれまで行われてこなかった。今回、独自の劈開法の確立によって、初めてCoSiの明瞭なバンド分散構造をARPES実験によって得ることに成功した。バルク敏感な軟X線を用いたARPES実験によって、本物質がスピン1粒子及び二重ワイル粒子の特徴に一致するバンド分散をもつことを明らかにし、表面敏感な紫外光によって、そのトポロジカル数を反映した表面フェルミアーク状態の直接観測に世界で初めて成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、スピン分解ARPESによるトポロジカル半金属における新奇な量子相探索に向けて、スピン分解ARPES装置に接続されたMBE薄膜作成装置の建設とトポロジカル半金属薄膜作製条件の模索、スピン分解ARPES装置の高度化を行なった。6-eV連続発振レーザーの導入によって高い統計精度で高エネルギー・運動量分解によるスピン分解ARPES実験が可能となった。また、建設した装置によってトポロジカル半金属薄膜作製条件の模索を行い、Cd3As2においてはその高い蒸気圧から通常の薄膜作製方法では高品質薄膜作製が難しいものの単結晶薄膜作製に成功した。さらに計画していた装置の開発・改良、薄膜作製条件の模索に加え、BCS高温超伝導体MgB2と同様の電子構造を持つAlB2中でのディラック線ノード構造の新しいトポロジカル半金属CoSi中での新型粒子の発見など、いくつかの新たなトポロジカル半金属物質の電子状態を高分解能ARPES実験によって明らかにしたため、順調に進行していると考えられる。
来年度は装置改良として新たなレーザー光学系を設計・設置し、微小スポット化やレーザー光出力の安定化を行う。試料マニュピレーターの再設計や試料冷却用液体ヘリウム循環機構の見直しを行い、試料位置の高安定化を行うことで、スピン分解ARPES装置の空間分解能を向上させる。また、スピン分解ARPES装置の低エネルギー領域でのレンズパラメータを最適化し、装置エネルギー、運動量分解能を向上させる。Cd3As2の高い蒸気圧による高品質薄膜作製の困難さを解決するために高圧アニールが可能な機構を開発し、高品質なCd3As2薄膜作製条件を模索する。Cd3As2薄膜の電子状態の膜厚依存性を精密に決定し、ディラック電子状態にギャップが生成される前後での表面電子状態の変化を調べ量子サイズ効果によるトポロジカル相転移について明らかにする。また、磁性、超電導基板上にCd3As2薄膜を作製し、近接効果によるトポロジカル相の制御を試みる。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件)
Physical Review Letters
巻: 122 ページ: 076402-1-6
10.1103/PhysRevLett.122.076402
Physical Review B
巻: 98 ページ: 041105(R)-1-5
10.1103/PhysRevB.98.041105
巻: 98 ページ: 140502(R)-1-5
10.1103/PhysRevB.98.121111