研究課題
本年度は主にMBE-スピン分解APRES一体装置の改良と反強磁性トポロジカル物質候補物質GdPtBiにおける反強磁性転移に伴うバンドの変調の観測を行った。また、ケルン大学において4ヶ月の研究滞在を行い、新奇トポロジカル半金属候補物質の単結晶合成を行った。装置の改良として第一に新たなレーザー光学系を設計・設置し、レーザー出力の安定性改善及び、微小スポット化に取り組んだ。第二に新たな試料冷却用液体ヘリウム循環機構を開発し、試料温度・液体ヘリウム流量の安定性を改善した。これにより微小試料の測定や試料上のドメイン分割測定が可能となった。上記と並行して、反強磁性秩序がトポロジカル半金属物質の電子状態へ与える影響を明らかにするために、反強磁性秩序と持つ新奇なトポロジカル半金属の探索を行った。反強磁性転移温度TN=9Kを持つ希土類ハーフホイスラー合金GdPtBiはカイラル量子異常に起因すると考えられる伝導特性が報告されるなど注目を集めている。一方で、反強磁性転移温度が低く従来の角度分解光電子分光装置ではその反強磁性相の電子状態の測定は難しかった。本研究では極低温高分解能角度分解光電子装置を用いて本物質の反強磁相の電子状態の観測に成功し、その反強磁性秩序形成による電子バンド変調の観測に世界で初めて成功した。また、2019年7-10月にケルン大学(ドイツ)安藤研究室に滞在し、新奇トポロジカル半金属候補物質の合成・結晶評価及びその磁場中輸送特性の測定を行った。具体的には、希土類(La,Ceなど)を含み、磁性と結晶対称性の相関が期待される3次元トポロジカル半金属候補物質などを対象とし、いずれの物質に対してもミリメートルオーダーの大型高品質単結晶の合成に成功した。特に一部の物質においてはこれまで報告されていないディラック電子に起因すると考えられる高移動度電子キャリアを新たに観測した。
2: おおむね順調に進展している
本研究においてはスピン分解ARPESによるトポロジカル半金属における新奇な量子相探索のためにスピン分解ARPES装置の高度化を行うととともに、反強磁性相転移にともなうトポロジカル電子状態の変調の観測に成功した。新たなレーザー光学系の導入と液体ヘリウム循環機構の見直しによる試料位置の安定化により微小試料や試料表面のドメイン分割測定が可能となった。また、反強磁性トポロジカル半金属GdPtBiの反強磁性秩序が電子状態に与える影響を明らかにし、当初の目標であった磁性秩序を持ったトポロジカル相の探索及び磁性秩序対称性とトポロジカル電子状態の影響の解明を高分解能ARPES実験により達成できたと考えられる。以上より、研究は順調に進行していると判断した。
来年度は、スピン分解ARPES装置の性能評価を行うとともに空間反転対称性のないNbAs薄膜を作製し、その量子サイズ効果や元素吸着効果を精査し、空間反転対称性の破れが電子状態に与える影響を明らかにする。また、Cd3As2薄膜を超伝導基板上に成長させ、超伝導近接効果によるトポロジカル半金属薄膜への超伝導発現の可能性やその超伝導ギャップ対称性について精査する。また、上記と並行して本年度新たに合成した反強磁性を持つトポロジカル半金属候補物質の単結晶試料に対して高分解能スピン分解ARPES実験を行い、反強磁性秩序よるトポロジカル電子状態制御を試みる。また、これまでの結果を研究結果をまとめることで、トポロジカル半金属をベースとした対称性や量子サイズ効果などの自由度によるトポロジカル物質相の制御方法を確立する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Physical Review B
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