研究課題/領域番号 |
18J20062
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡野 元基 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 磁化ダイナミクス / スピン波 / マグノ二クス / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
近年ハードディスクドライブのデータ記録面密度は限界に達しており、解決策として注目されているのがマイクロ波アシスト磁化反転である。高速磁気記録をマイクロ波アシスト磁化反転で実現するためには、磁化の歳差運動がどのように成長し反転に至るのか(磁化反転ダイナミクス)の理解が不可欠であり、本研究ではその解明を目的とした。そして本年度は、1. 異方性磁気抵抗(AMR)効果を用いた歳差運動角の定量評価測定、2. Cooperative Switching(CS)法の確立の2点を達成した。 1. AMR効果は、電気抵抗の測定から歳差運動角の定量評価が可能となる。本年度はまずNiFe細線についてAMR測定を行い、観測されたスピン波が3マグノン散乱と呼ばれる非線形現象に起因して励起されたものであることを明らかにした。さらに、同スピン波モードの共鳴周波数が細線断面のアスペクト比が1に近い形状の場合に非常に低減されることを明らかにした。 2. 磁化反転ダイナミクスを調べるための独自の研究手法であるCS法の確立に成功した。しかしこの段階でのCS法では、マイクロ波磁場とサブナノ秒幅のパルスとの間の電気的なタイミングのズレの発生を避けることができないという問題点があり、複数回の実験を行なって統計平均をとる必要があった。そして今現在、2つの信号間の印加タイミングのズレが生じないマイクロ波信号機を導入した場合でのCS法の測定系の構築が完了しており、次年度にかけてさらなる測定手法の簡易化、高精度化を試みる。 上記1.で述べたように本年度は、強磁性体の形状を変化させることでマイクロ波アシスト磁化反転で非常に重要なパラメータである共鳴周波数を大きく低減させられることを明らかにした。次年度は2.で改良したCS法の測定系を用いることで、同スピン波モードが磁化反転速度の観点からマイクロ波アシスト磁化反転に的するかを検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標は、垂直磁化ナノドットについて1.励起されるスピン波モードをサンプルの層構成や形状の変調により制御し、2.非線形磁化ダイナミクスの性質と3.過渡領域ダイナミクスの性質を任意のスピン波モードに対して明らかにすること、の3点である。本年度は、NiFe細線について以下に記す成果が得られた。 1. NiFe細線の寸法を系統的に変化させることで、励起されてる非線形なスピン波の励起条件を制御することに成功した。 2. 1.で観測された各スピン波がどのような空間分布を持つのかを定性的に明らかにし、モードの同定に成功した。 3. 過渡領域ダイナミクスの性質を調べるCooperative Switching法の精度向上のため、新たな測定系の構築を行った。 用いている計算機の計算速度の都合から垂直磁化ナノドット中で励起されるスピン波モードの予測には遅れが生じているものの、上述のように実験手法はNiFe細線を用いた場合で確立されており、実験はおおむね順調に進展している。次年度は垂直磁化ナノドットについて1.から3.の実験を進めていき、高速磁気記録に最適な素子構造を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終目標は、垂直磁化ナノドットについて1.励起されるスピン波モードをサンプルの層構成や形状の変調により制御し、2.非線形磁化ダイナミクスの性質と3.過渡領域ダイナミクスの性質を任意のスピン波モードに対して明らかにすること、の3点である。本年度までに上記の実験手法はNiFe細線を用いた場合で確立に成功しており、次年度以降は垂直磁化ナノドットについて1.から3.の実験を進めていくことで、本研究課題の最終目的である高速磁気記録に最適な素子構造の解明に繋げたいと考えている。 一方で、用いている計算機の計算速度の都合から垂直磁化ナノドット中で励起されるスピン波モードの予測には若干の遅れが生じている。そこで次年度は、用いているシミュレーションソフトmumax3の計算速度を向上させるための計算用PCを新たに導入し、研究の進行を加速させる。
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