研究課題/領域番号 |
18J20077
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川口 ゆり 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | チンパンジー / ボノボ / 乳児らしさ / 幼児図式 / 顔認知 |
研究実績の概要 |
養育行動を支える認知基盤としてヒトでは乳児に対する選好や注意バイアスなどが知られている。一方で、ヒトの認知の起源を解明するうえで比較対象となるヒト以外の霊長類においてはほとんど調べられていない。本研究では大型類人猿およびヒトがどのように同種および他種の乳児を認知しているのかを調べることで、ヒトの養育行動の進化的基盤を解明することを目的とする。 すでに視線計測によりチンパンジーがヒト同様、同種のおとなより乳児をより多く注視する傾向があることを明らかにした。ヒトでは乳児選好の要因として乳児らしい形態特徴に対する選好が知られている。そこで、チンパンジーにもそのような選好があるのかを知るために、チンパンジーの顔の形態を操作した刺激を用いて視線計測をおこなった。しかし、チンパンジーでは乳児らしい形態に対する選好はみられなかった。このことから「乳児らしさ」を知覚するのに重要な特徴は種ごとに異なる可能性があることが示唆された。 また、乳児らしさへの選好に関するヒトの先行研究はこれまで特定の文化圏(西欧・先進国)に限定されていたため、その通文化的普遍性に疑問を持つようになった。そこでマレーシアで「おとな・乳児」顔の印象に関する実験を予備的におこなったところ、文化差が存在している可能性が浮上した。具体的にはそれまで乳児らしさを感じさせるとされてきた「相対的に大きな目」がマレーシアでは乳児の特徴として捉えられていない可能性がある。さらに、今までBaby schemaとして種普遍的な乳児の形態的特徴があるとされてきたが、形態学的に実際に他種間で比較する研究はされてこなかった。そこで、共同研究者と大型類人猿のおとなと乳児顔に対して形態計測を行う研究にも着手しはじめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度、「チンパンジー、ヒトにおける乳児らしさとは何か」という問いに対して、予定通り、アイトラッキングによる視線計測やタッチパネルを用いた実験によってアプローチした。さらに、今まで不問にされてきた、乳児に対する認知においてヒトでも文化差が存在する可能性に着目し、予備的に実験を開始することができた。さらに、大型類人猿のおとなと乳児の顔の形態計測をおこなう共同研究に着手した。当初、予定していなかった文化比較研究や形態計測の研究は当該年度、異分野の研究者との交流により可能になった。研究成果に関しては、大型類人猿のアイトラッキングの結果について学術論文を執筆し国際誌に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでチンパンジーがヒト同様、同種の乳児に対しておとなより注意を向けることを明らかにしたが、今までの研究では乳児のどのような特徴が注意を引き付けたのかが不明であった。そこで、ヒトの顔研究と同様の手続きでチンパンジーの顔刺激を形態と色に関して独立に操作した刺激を用いることで、乳児のどのような特徴が注意を喚起するのかを調べる予定である。さらに、ヒトの乳児に対する選好は社会学習などにより獲得されたものなのか、生得的に有しているのかはまだわかっていないが、乳児選好の機能を明らかにするためには重要であると考えられる。そこで、ヒトの成人と乳児の両方に対して大型類人猿の実験と同じ手続きで実施し、比較認知科学に発達的視点も取り入れて研究をおこなう。さらに、ヒトは乳児の音声に対して特異的な神経活動を示すことが知られているが、今までのヒト以外の類人猿を対象にした研究では乳児が情動に与える影響は調べられてこなかった。そこで、サーモカメラを用いた体温変化を指標とすることで、同種の乳児とおとなの音声に対する大型類人猿の情動変化を調べることができるかどうか検討する。
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