研究課題/領域番号 |
18J20079
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
増田 亘作 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / 概日リズム / 位相応答 / 数理モデル / 同期制御 |
研究実績の概要 |
植物の生育環境における明暗条件の波形が植物概日時計の同期に与える影響の調査を行った。先行研究を基にサイン関数型、のこぎり型、パルス型、LD型の4種の波形を明暗波形として設定した。各波形は先行研究と同様に一周期あたりの平均値一定かつ平均値からのずれ値の二乗平均が一定の条件で正規化した。これらの条件において遺伝子組換えシロイヌナズナCCA1::LUC、TOC1::LUCを用い、時計遺伝子CCA1・TOC1の発現パターンを計測した。実験の結果、CCA1・TOC1ともにサイン関数型がパルス型に対して同期状態の指標である振幅が有意に大きくなることが分かった。また、数理モデルを用いた理論的な解析やシミュレーションにおいても、サイン関数型が最も振幅が大きく、パルス型が最も小さくなることが分かった。以上の結果から、植物概日時計の制御においても理論あるいはシミュレーションによって、明暗波形の違いによる振幅の変化を予測することが可能であることが示された。 また、植物概日時計の同期特性に関する部位特異性について検証するため、植物の葉と根それぞれの位相応答曲線を計測した。計測においては、植物概日時計に現れる時空間パターンに着目した。植物の根の場合には恒暗条件下で自発的に、植物の葉では環境光を時空間的に変化させることにより、一個体内で複数の位相が存在する時空間パターンが現れることが分かっている。この時空間パターンを用いることで、概日時計の各位相の応答を一度の計測で同時に取得することができる。この時空間パターンを用いた位相応答曲線の計測により、葉と根の温度刺激に対する位相応答曲線を計測した。実験の結果、正負の温度刺激に対して、それぞれの応答特性の差異を計測することができた。また、植物の葉と根の位相応答曲線を比較することで、全体的に葉の方が同じ刺激に対しても強い応答を示すなど、部位間の差異が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、既存研究における非線形振動子制御理論に基づいて植物概日時計の振幅の変化を予測できることが示せた。本結果と植物の生育と概日リズムの振幅の関連を示すこれまでの結果を合わせることで、植物概日時計を考慮した栽培環境の設計が可能になると考えられる。加えて、植物個体内に現れる概日リズムの時空間パターンを利用して植物の部位ごとの同期特性を計測することができた。この結果により、部位ごとの同期特性を考慮した、より精密な概日時計制御が可能になると考えられる。以上の結果から、最終的な研究目標を達成する上で十分に研究が進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として、非線形振動子制御理論を用いた環境制御による植物概日時計制御に関する知見を基に、植物生産における概日時計を考慮した栽培環境設計を目指す。2018年度の研究の結果により、植物の成長と概日リズムの振幅との関連性が示されており、2019年度の結果では、理論に基づいた周期環境の制御により概日リズムの振幅をコントロールできることが分かっている。そこで、理論に基づく概日時計制御により、植物の生育がコントロール可能であるかの検証を行う。まず、2019年度の概日リズムの制御に用いた明暗波形の異なる4種の環境を再現し、この環境でモデル植物のシロイヌナズナと植物工場栽培品目であるレタスを栽培し、成長量を比較することで概日時計制御が植物の生育に与える影響を評価する。また、理論的には植物の同期において最適な周期環境を求めることができる。この環境を栽培環境に設定し、植物の生育を評価することで理論に基づく栽培環境設計の有効性の検証を行う。 また、植物の概日時計は部位特異性を持ち、部位ごとに環境刺激に対する同期特性も異なることが明らかとなっている。そこで、植物概日時計の部位特異性が環境との同期に与える影響を評価する。まず、前年度までの研究で得られた植物概日時計の部位ごとの同期特性に基づき、数値シミュレーションによって周期的な栽培環境との同期における部位ごとの差異を評価する。また、栽培条件によっては地上部と地下部では環境の変化に違いがある場合がある。そこで、地上部と地下部における周期環境の差異が同期に与える影響についても評価する。そして、理論とシミュレーションを通し、部位間の差異を考慮した上での概日時計の同期における最適な周期環境を求める。さらに、この環境においてシロイヌナズナやレタス等の栽培実験を行うことで、部位間の差異を考慮した栽培環境設計が植物の生育に与える影響を評価する。
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