研究課題/領域番号 |
18J20160
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷口 達彦 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 熱電 / 四族半導体 / ナノ構造 / ナノドット / 超格子 / シリコン / ゲルマニウム |
研究実績の概要 |
本研究は、LSI分野の歪技術と独自ナノ構造で、電気伝導率“増大”と熱伝導率低減の同時実現という熱電材料の長年の課題の解決が目的である。 本年度は歪Si1-xGexの熱電性能評価を行う予定であったが、熱伝導率低減が予想以上に成功し、そちらに注力する様に予定を変更した。研究成果としては、1.独自の極薄酸化膜技術を用いたSiGe薄膜上エピタキシャルGeナノドット(ND)の作製(最終年度の予定を前倒しで実施)、2.その技術を用いたSiGe/Ge ND積層構造の作製・熱伝導率評価、3.バンド構造制御したSiGe/Si超格子の作製・熱電性能評価が挙げられる。以下に具体的な内容を示す。 これまで我々の極薄酸化膜はSi上への形成のみで、SiGe上への応用(1.)は初の試みである。Si0.75Ge0.25薄膜に対してSiと同様の条件で極薄酸化とGe ND形成を行ったところ、Si上と同様の形状のNDが得られた。さらにその条件で、Si0.75Ge0.25層とGe NDを積層して熱伝導率を測定したところ(2.)、1-2 W/mKとエピタキシャル成長したSiGe系構造としては非常に低く、PbTeなどに匹敵する値を得た。本構造に歪Si1-xGex層を挿入した構造が目標であるため、熱伝導率低減は十分な結果が得られたといえる。 3.のSi1-yGey/Si超格子(y = 0.1, 0.2, 0.3)は、歪の小さな構造であるため、歪Si1-xGexとの比較により歪の効果が確認できる試料となる。その熱電性能は、歪が小さいために電気伝導率はバルクSiよりも低かったが、ゼーベック係数は先行研究のGe/Si超格子よりも大きく、その結果SiGe系超格子内で最大の熱電出力因子を得た。また、SiGe/Si界面のエネルギーバンド障壁を小さくして、界面キャリア散乱を減らしたことで高ゼーベック係数が得られたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題の要の一つである歪Si1-xGex(x = 0 - 1)の熱電性能を評価、およびそれによる出力因子増大を示す予定であったが、熱伝導率低減を目指したナノドット含有薄膜の形成に成功し、熱伝導率低減が予想より大きな成功を収めたので、そちらに集中して行う方針に舵をきった。歪SiGeの熱電性能評価を後日に行うことに変更したが、独自技術を用いたGeナノドットによる熱伝導率低減は当初計画より進んで成果を得ることができた。これらのことから、順調に進んでいると判断した。以下に、個々の成果に関しての記述を行う。Si-richなSiGeではあるが、独自の極薄酸化膜技術を用いたSi0.75Ge0.25薄膜上エピタキシャルGeナノドットの作製に初めて成功した。さらに、それを応用したSi0.75Ge0.25/Geナノドット積層構造においては、エピタキシャル成長したSiGe系ナノ薄膜としては非常に低く、熱電材料として実用化されているPbTeなどに匹敵する、1-2 W/mKという値を得た。この構造に歪SiGe層を導入して出力因子増大を達成することが本研究課題の目標であることから、熱伝導率低減については十分な結果を得たと言える。また、SiGe/Si超格子においては、SiGe系超格子としては最大の~27 μW/cmK2という高い熱電出力因子を得た。本成果では、界面バリア障壁によるキャリア散乱抑制がゼーベック係数低下を防ぐことを明らかにした。これは、出力因子増大を目指す構造を設計するにあたって、重要な知見である。このような結果を考慮すると、研究目的達成に向けて、確実に前進していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、SiGeにおける歪量と熱電性能の相関を評価する。歪Si1-xGexの作製における課題としては、歪緩和Si1-yGeyバッファ層の作製が困難であることが挙げられる。そのため、加速的に研究を行うために、外部機関との協力を図り、歪緩和Si1-yGeyバッファ層の作製を行う。具体的には、歪Si1-xGex作製技術を有する東京都市大学の澤野教授のもとで歪Si1-xGex試料の作製を行う。さらには、歪緩和Si1-yGeyバッファ層を澤野教授から提供していただき、我々の設備でその上に歪Si1-xGex層を作製することも予定している。このようにして、形成した歪Si1-xGexの熱電性能評価を行う。熱電性能は、当研究室が所持するゼーベック係数測定装置、ホール効果測定装置、2ωナノ薄膜熱伝導率計によって行う。また、歪量はX線回折装置により評価する予定である。 続いて、歪Si1-xGex層と歪緩和Si1-yGey層の積層構造の作製を行う。本構造は、前述した歪Si1-xGexによる電気伝導率増大効果に加えて、積層界面でのフォノン散乱による熱伝導率低減を目指す。この際、歪量が最適な状態であるかを確認する必要があるが、X線回折装置では各々の層の歪量は測定できない可能性がある。その際は、透過型電子顕微鏡により断面の詳細な構造観察を行い、歪量が最適な状態を保てているかの確認を行う。 これら構造にドーピングを行う際、余分なキャリア散乱を抑制するために変調ドーピングを行うことも考えている。その場合、キャリアがどの程度の領域を伝播しているかを実験的に確かめることは困難であり、膜厚に依存する電気伝導率の値が不確かなものになってしまう。そこで、シミュレーションなどによってバンド構造を明らかにして、膜厚を正確に定義することで、過不足のない熱電性能の評価が可能になると考えている。
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