研究課題
非協力ゲーム理論で交渉の分析を行う際には、利益の分配案の提案を各個人が交互に行うモデルが用いられることが多い。このモデルの特徴の一つとして、一回の提案機会(1期間)で提案を行うことができる個人は1人と定められていることがあげられる。このモデルでは均衡の結果として各個人が利益を半分ずつに分けることが知られているが、これは各個人の提案機会が等しいことに起因していることを私は以前の研究で示した。しかしながら、一回の提案機会(1期間)で二人が同時に提案できるモデル(同時提案モデル)を考えたときは、各個人の提案機会が等しくとも、均衡において利益を半分に分けるとは限らない。従来の同時提案モデルでは多くの利益分配の方法が均衡として現れることが知られている。したがって、提案頻度が合意分配に与える影響の分析は困難である。そこで今回の研究では多様な均衡があらわれない同時提案モデルを構築し、そのモデルで提案頻度が合意分配に与える影響分析した。今回の研究ではモデルの構築にあたって、仲裁者という存在を新たに導入した。仲裁者は各個人が同時に提案した分配案をもとに、交渉における折衷案を提案する役割を担う。このとき、仲裁者は各個人の提案を踏まえた上で折衷案を提案しているため、その意味で仲裁者の提案は内生的である。この仲裁者を同時提案交渉モデルに導入し、次の結果を得た。仲裁者が各個人に対して公平なとき、均衡が唯一つ存在し、その均衡で公平な利益分配が達成されることを示した。したがって、公平な仲裁者が導入されると、同時提案モデルにおいても、各個人の提案機会が等しいときに均衡で利益が半分に分けられることを示した。一方で、仲裁者がどちらか一方の個人を好むバイアスを持っているときは、仲裁者の折衷案が均衡に影響を及ぼすため、仲裁者に好まれる個人にとって有利な利益分配が均衡で達成される可能性があることを示した。
2: おおむね順調に進展している
私は「解(均衡)が一つに定まるような離散時間かつ内生的な交渉モデルを構築し、提案機会と利益分配の関係性の分析を行うこと」を本年度の目標として挙げた。内生的な交渉モデルを構築するという点においては、数学的分析の困難さにより、研究計画当初に予定していた構築方法とは異なる方法でモデルの構築を行ったものの、それよって離散時間同時提案交渉ゲームにおける提案機会と利益分配の関係性を分析することができ、解(均衡)が一つに定まる条件も導出することができた。通常、離散時間同時提案交渉ゲームでは非常に多くの解(均衡)が存在することが知られているため、解(均衡)が一つに定まる条件を導出することができたことは重要な成果であるといえる。この研究は学会での発表も行い、既にディスカッション・ペーパーとしてまとめてある。さらに、査読付き国際論文誌に投稿し、現在、修正・再投稿(R&R)の返答を受けている。また、修士課程で行った提案機会と利益分配の関係性に関する研究に関しては、研究計画時に投稿中であった査読付き国際論文誌より修正・再投稿(R&R)の返答を受けたため、修正・再投稿を行い、現在再査読の段階にある。今年度はこの研究についての国際学会発表も行った。以上より、数学的分析の困難さによって内生的な交渉モデルの構築方法は見直さなければならない部分があったものの、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
今年度の研究において、研究計画当初に予定していた内生的な交渉モデルの構築方法は数学的に困難な側面があることが分かった。そのため、計画とは異なる方法でモデルの構築を行ったが、このモデルを構築するにあたり、仲裁者という存在をモデルに導入した。その結果、同時提案モデルにおいて解(均衡)が一つに定まるために、仲裁者が重要な役割を果たすことを示すことができた。そこで今後の研究の推進方策としては、当初に予定していた内生的な交渉モデルの構築方法ではなく、仲裁者を交渉モデルに導入することによって、様々な交渉状況下における提案機会と利益分配の関係性などの分析を行いたいと考えている。また、現時点までの研究では、現実の交渉でしばしば用いられるコミットメント戦略(ある値段以下では商品を売らないという宣言など)が可能な状況についての分析がなされていない。したがって、可能であれば、今後の研究ではコミットメント戦略が可能な状況での分析も行いたいと考えている。
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Discussion Paper No.2019-2, School of Engineering, Department of Industrial Engineering and Economics, Tokyo Institute of Technology
巻: - ページ: 1-26
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