研究課題/領域番号 |
18J20176
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 謙也 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | レドックス状態 / 電気化学 / シアノバクテリア / 光合成 / 概日時計 / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
光環境が時々刻々と変化することによる光合成反応の変化は、光合成生物に様々な環境適応を誘起させる。光合成生物において、細胞内レドックス状態は環境適応の遺伝子発現シグナルや酸化ストレスと密接に関係しており、重要な生理学的パラメーターである。本年度、光環境適応に対する光合成生物の細胞内レドックス状態に関して、「生物工学会誌」に解説を投稿し、採択された。 細胞内レドックス状態は光環境および細胞生理機能の影響をうけて複雑に変化するため、その動態を把握することが困難である。そこで私は細胞内レドックス状態のin vivoかつリアルタイムでの電気化学的測定を、所属するグループが開発してきた高い細胞親和性と細胞膜透過性を有する電子メディエーター(pMFc-Me8)を用いて、シアノバクテリアにおいて行ってきた。本年度は、この電気化学的手法を用いて概日時計と細胞内レドックス状態との関係を調べた成果をまとめ、論文として報告した。さらにこの研究を含む、電気化学的細胞内レドックス状態の測定および制御方法を使った研究について総説を書き、光合成学会誌である「光合成研究」に採択された。 上記の成果は概日時計による遺伝子発現制御が細胞内レドックスにも影響を及ぼすことを示している。概日時計による細胞生理やレドックスへの影響をさらに調べるため、本年度はシアノバクテリア細胞の酸化ストレスへの耐性や抗酸化酵素活性および、NADPHレドックスへの概日時計の影響を調べた。その結果、活性酸素種の一種であるスーパーオキシドを発生させたときの酸化ストレス耐性は概日時計による影響をうけることが分かった。また、NADPHのレドックスは概日時計の影響をうけ、リズムを刻むことが分かった一方、概日時計欠損株においても振動することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シアノバクテリアにおいて、独自の電気化学的手法を用いることで細胞内レドックスと概日時計がフィードバック的に相互作用していることを明らかにしてきた。2019年度は、この成果をPhotosynthesis Research誌に学術論文(査読有り)に発表するに至った。さらに、細胞内レドックス種の代表的分子であるNADPのレドックス状態が概日時計によって制御されていることを明らかにした。重要なことに、概日時計欠損株ではNADPのレドックス状態は不安定な振動を刻むことが示唆された。これらのことは概日時計が細胞内レドックス状態の安定性に寄与している可能性を示しており、概日時計の細胞内レドックス制御の新たな生理学的意義が見出されつつある。一方で、採択課題であるレドックスシグナル伝達機構の解明に向けて、シアノバクテリアの概日時計タンパク質であるKaiABCを用いたin vitro実験により、細胞内代謝物が概日時計に及ぼす影響を調べ、特異性のある代謝物の抽出を試みてきた。その結果、分子構造の特定には至っていないが、KaiABCタンパク質に影響を及ぼす代謝物があることが分かってきた。以上のように、当初の計画が順調に進んでいることに加え、細胞内レドックスに関する研究をさらに展開し、成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
in vitroでKaiAに作用する細胞内代謝物の存在が示唆された。今後はこの化合物の同定を行い、シアノバクテリア概日時計におけるレドックスシグナルの伝達機構を明らかにする。 概日時計は昼夜サイクルに伴う環境変化に効率的に対処することを可能にする。環境中の水圏において昼夜サイクル下では、光合成に伴って酸素濃度が変化する。酸素は水圏に生息する生物の電子アクセプターとして重要である。したがって、自然環境中では昼夜で電子アクセプターの量が変化することで、細胞内レドックスが影響されていると考えられる。概日時計によって、このような電子アクセプター量の変化に対してどのような応答が行われているのかを検証する。
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