研究課題/領域番号 |
18J20246
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉井 丈晴 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 表面プラズモン共鳴 / シングルサイト触媒 / Auナノロッド / グラフェン / C-Cカップリング反応 |
研究実績の概要 |
近年、表面プラズモン共鳴を利用した触媒反応の促進が広く検討されており、触媒活性点となるPdと表面プラズモン共鳴を示すAuをヘテロ接合させることで、可視光照射下で特定の触媒反応が促進されることが報告されている。しかし、PdとAuの界面で熱電子緩和が起こりやすいことが知られており、Auの表面プラズモン共鳴で生じた共鳴励起電子の触媒反応への効率的な利用には未だ課題がある。当該研究では、Auナノ粒子表面上での活性点構造を制御した新しいナノ構造触媒の開発を行い、表面プラズモン共鳴による活性向上の最大化を目的としている。 本年度は、表面プラズモン共鳴によって生じる共鳴励起電子を効率的に反応加速へ利用可能なナノ構造の設計、合成およびその触媒性能の評価を行った。具体的には、グラフェン被覆Auナノロッドを合成し、その上にPdクラスターを担持した触媒の合成を試みた。グラフェンは高い電気伝導性を有する層状物質であり、Auと接触させておくことで表面プラズモン共鳴により生じた電荷の移動を促進可能であると考えられる。本年度はまずグラフェン-Auナノロッド複合体の合成を試み、グラフェンの前駆体である酸化グラフェンの導入量や調製方法を検討することで、Auナノロッド周辺に均一なグラフェン層を被覆することに成功した。さらに、グラフェン層上にPdクラスターの担持を行いPdクラスター担持グラフェン被覆Auナノロッドを調製し、その構造を種々のキャラクタリゼーションにより同定した。これを鈴木―宮浦カップリング反応に用いると、可視光照射下において従来の触媒よりも高効率に反応が進行した。実験的検討と量子化学計算から、本触媒系においてグラフェン層は活性種固定化サイトとなるだけでなく、電子メディエーターとしての役割を果たし、Auナノロッドで生成された共鳴励起電子がPdに効率的に輸送され、反応が促進されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究ではナノ構造を制御した新しいプラズモニック触媒の開発を行っている。当該年度は、表面プラズモン共鳴で生じた熱電子の効率的な利用を目的として、Pdクラスター担持グラフェン被覆Auナノロッドを合成し、その構造解析と触媒性能評価を行った。 酸化グラフェンを水中で超音波分散、濾過した後、これをAuナノロッドコロイドと混合、静置することでグラフェン被覆Auナノロッドコロイドが得られた。このコロイド中にPd前駆体水溶液を加えて水素還元処理を行うことで、グラフェン被覆Auナノロッド担持Pd触媒の調製に成功した。調製した触媒は透過電子顕微鏡観察、元素マッピング分析およびラマン分光測定によってその構造が同定され、また紫外可視光吸収分光測定によってカーボン被覆後においてもAuナノロッドによる可視光吸収が維持されることが分かった。 調製した触媒を鈴木―宮浦カップリング反応に用いると、可視光照射下では暗所下に比べて約4倍高い活性を示し、参照触媒との比較からグラフェン層の存在が反応活性向上に寄与することが分かった。反応速度の光量依存性測定や電子捕捉剤を用いた反応試験を通して、本触媒における活性向上はAuナノロッドの共鳴励起で生成された熱電子に由来すると推測された。さらに、グラフェン被覆Auをモデル化し量子化学計算を行うと、Auからグラフェンへの電子移動が起こることが分かった。以上の結果から、本触媒系においてグラフェン層はPd活性点の固定化サイトとなるだけでなく、Auで生じた共鳴励起電子をPdへ効率的に輸送し、触媒反応を促進していることが示唆された。 当該年度において計2報の論文を投稿したほか、国内外で10件の学会発表を行い、そのうち3件で講演賞・ポスター賞を受賞した。以上の研究結果から、当該研究は現在まで当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、表面プラズモン共鳴を示す貴金属ナノ粒子上に、単原子の金属活性種(シングルサイト活性種)を担持した複合型触媒の創成を行うことを目的としている。これまでの研究で得られた知見・材料をもとに、次年度は以下の2つのアプローチから、Auナノロッド上へのシングルサイト活性種の固定化を試みる。 (1) これまでの研究でグラフェン被覆Auナノロッドにおいて、可視光照射下で高い反応促進効果が得られることを見出している。一方で、当研究室ではこれまでに、平面構造錯体を前駆体に用いることで、炭素材料へシングルサイト活性種を担持可能であることを報告してきた。この手法を応用し、π-π相互作用を介してグラフェン被覆Auナノロッド上への錯体前駆体の固定化を行い、シングルサイト触媒を調製し、表面プラズモン共鳴誘起熱電子による反応加速を目指す。 (2) 窒素と炭素からなる化合物である層状カーボンナイトライド(g-C3N4)は、グラフェンと同様に可視光透過性・電気伝導性を有し、Auナノロッドの被覆材として利用可能であると考えられる。また、g-C3N4は高秩序な平面規則構造の中にN原子で囲まれたサイトがあり、ここに金属原子を配位させることでシングルサイト活性種を固定化可能であることが知られている。そこで、これまでに開発した手法を応用してg-C3N4被覆Auナノロッド複合体を合成し、これにCo前駆体を導入し化学還元処理を施すことで、g-C3N4上にCoをシングルサイトで担持する。調製したg-C3N4被覆Auナノロッド担持Coシングルサイト触媒をCO2の光触媒的還元反応に適用し、Auの表面プラズモン共鳴で生成された共鳴励起電子がCoシングルサイト活性種上で起こる還元反応に与える影響を調査する。さらに、XAFSなど分光学的手法を用いて、活性種構造の同定や反応加速メカニズムの解明を試みる予定である。
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